番外編 私、遼君色に染まりたいの!
七月のある日。
俺は、昔の透花のプロフィール欄を眺めていた。
------------------------------
名前:朝比奈透花
年齢:10歳
誕生日:9月9日
好きな物:お母さん
嫌い物:ピーマン
・天才的な演技と、それを裏打ちする徹底した役作りで、子役業界では「小さなカメレオン」と呼ばれている。
・ブレイクのきっかけは、社会派ヒューマンドラマ『明日、ママが帰る日』で演じた“涙を見せない少女・あかり”役。圧巻の泣き演技と感情の起伏を抑えた静かな演技が話題となり、一躍脚光を浴びた。
・相手の感情を真似る観察眼に長けており、共演する大人の俳優たちすら圧倒される。
・ただし、普段は人見知りで引っ込み思案。撮影現場ではスイッチが入ったかのように豹変するため、スタッフの間では「ONとOFFの差がえぐい」と噂されている。
・家では普通の小学生として、母親に甘えたり、宿題に苦戦したりと年相応な一面も。
・好きな食べ物はオムライスで、特にお母さんがケチャップでハートを描いてくれると最高にテンションが上がる。
・歌も上手く、ファーストシングル『ママのうた』はドラマの挿入歌として起用され、動画サイトでのMV再生数は300万回を突破。素朴でまっすぐな歌声が視聴者の心を打ち、「こんな10歳がいるなんて」とSNSで話題になった。
・撮影の合間にぬいぐるみと会話している姿が目撃されており、マネージャー曰く「本番前のルーティンらしい」とのこと。
------------------------------
正直、概要欄はどうでもいい。俺はある一点を脳裏に刻み込んでいた。
>誕生日:9月9日
>誕生日:9月9日
夏休みが終わったらすぐに透花の誕生日がやってくる……。
せっかくの夏休みだが、遊びまくるわけにはいかなくなったぞ。少しでも節約して、透花の誕生日プレゼントに備えないと。
……彼女ができたんだからお小遣いのやりくりも限界あるよなぁ。バイトでもしてみようかな。
そんなことを考えながら、自室のベッドに寝転びながら、携帯でアルバイト探しをすることにした。俺が、アルバイトしたいって言ったら透花はなんて言うのかなぁ。案外「一緒にやりたい」なんて言い出しそうだ。朝比奈透花がアルバイトしたいなんて言ったら、どこでも雇ってくれそうなのがちょっとズルい。すごい騒ぎにはなりそうだけど。
「誕生日までやることは沢山あるぞ……」
まずはお金を貯めて、透花の欲しいものを聞きだす!
そして、今年は透花にとって最高の誕生日にするんだ!
「……俺の誕生日、もう少しなんだけど透花は知ってるのかな」
ちなみに俺の誕生日は8月8日。自分から言うのはかなりダサいので、聞かれるまで言わないようにしている。透花には、少しくらい俺の誕生日を気にしてほしいなんて思ったり思わなかったり。
「遼くーん!」
そんなことを考えていたら、透花が俺の部屋にやってきた。合鍵渡しているのだから当然なんだけど、完全にうちは透花に対して、フリーパス状態だ。
「あっ、珍しく寝てる」
「ちょっと調べものをしてて」
「ふーん」
透花が俺の隣に腰をかけてきた。相変わらず距離が近い。
「ちなみに透花ってなにか欲しいものある?」
「欲しいもの?」
「うん、物でもなんでも」
「欲しいのあったらすぐに買っちゃうしなぁ」
「この金持ちめ……!」
さりげなく聞いたのだけど、逆効果だった。これは透花の誕生日プレゼント選びは難航しそうだぞ……。
「あっ、でも物じゃないけど欲しいものはあるよ!」
「えっ、なにそれ?」
「私、遼君が欲しい!」
「さーて、勉強でもしようかな」
「聞いておいて、スルーしないでよ! ちなみに足りないものもある」
「足りないものって?」
「下着が足りてない……一緒に買いに行こ?」
「なんで、いつも下着一緒に買いに行きたがるんだよ! 恥ずかしいから自分で買いにいけよ!」
「私、全部、遼君色に染まりたいの! それくらい分かってよ! 彼氏でしょ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます