第17話 「まだ育成されてないとこあるよ」「どこ?」「触ってみる……?」

「遼君、お願い」


 はらりと布団がめくれた瞬間、俺は思わず息をのんだ。肩から背中にかけての白い肌が、部屋の光をやわらかく反射している。


 ――純白の下着姿の透花が、そこにいた。


「か、彼氏にしかこんなこと頼めないから……さ、さっきは海でもって言ったけど、外で肌出すのは恥ずかしいし……」

「う、うん……」


 透花はそっとベッドの上でうつ伏せになり、白い背中を俺に預ける。

 頭ではわかってる。日焼け止めを塗るだけ――それだけのはずなのに。

 うつ伏せになった透花の胸元が、布団に押されてわずかに形を作っていて……視線が勝手に吸い寄せられそうになってしまう。


「じゃ、じゃあ……お願いね?」


 透花から渡された日焼け止めクリームを手に取り、俺はゆっくりと彼女の背中に触れた。


「……あ、くすぐったい……」


 透花が小さく笑いながら、かすかに身をよじる。俺は焦って力を弱めてしまった。


「ご、ごめん……優しく塗るから」


 俺は手の動きをさらに丁寧にして、ゆっくり背中を撫でるように日焼け止めを広げていく。指先に吸い付くような柔らかさと、じんわり伝わる温もりに、心臓が今にも破裂しそうになる。


「んっ……!」


 俺の指が動く度に、透花が苦しそうに小さく息を吐く。


「ふっ……んぅ……」


 透花の息遣いがだんだん深くなっていく。手のひらでなぞるだけで、彼女の体が微かに震えるのが分かる。俺は、少し心配になって透花にそっと声をかけた。


「痛くない?」

「ううん……くすぐったいだけ。でも、遼君の手、すごく優しくてなんか気持ちいい」


 透花が優しい声色でそう答えてくれた。俺はほっと胸を撫で下ろし、手の動きを再開させる。背中の曲線に沿って指先をゆっくり滑らせると、透花の体がぴたりと俺の手に寄り添うように震えた。


「遼君……もう少しだけ、強めにしてもいいよ?」

「わ、分かった」


 俺の手は更に背中の中央から肩甲骨へと移動し、日焼け止めを丁寧に伸ばしていく。布団に押された胸の膨らみが揺れて、視線がまた引き寄せられそうになってしまった。


「遼君、あのぅ……」

「ど、どうした!?」

「い、今のままだと塗りにくいでしょ? 恥ずかしいけど……外してもいいから」


 透花が、震える声でそんなことを言ってきた。


「わ、私のこんな姿、遼君にしか見せないんだからね……」


 細い肩甲骨の間をなぞるように、ブラのストラップが白い肌の上にくっきり浮かんでいた。震える声と、恥ずかしそうに俯く横顔に、胸の奥がじんわり温かくなる。そっと手を伸ばしてストラップに触れると、細くて柔らかい感触が指先に伝わった。


「本当にいいの?」

「うん……遼君だけだから、お願い……」


 そう言って透花は小さく息を吸い込む。

 俺がゆっくりブラのホックを外す動きを始めると――。


「りょ、遼くぅん……す、すごく恥ずかしい……」


 俺の指先がホックに触れ、カチリと小さな音が鳴る。肩甲骨に沿ったストラップが、ふわりと緩んだ。外せるか不安で緊張していたけれど、思ったよりもあっさり外れて、少しほっとしまった。


「だ、だめ……そんなに見られたら、心臓もたないよ……」


 途端、彼女の白い背中が一層あらわになった。


「じゃ、じゃあ、早く塗るから」


 自分でも驚くほどぎこちない声でそう言い、俺はそっと日焼け止めを背中全体に広げていった。


「んっ……ふぅ……遼君の手、あったかい……」

 

 透花の声は、くすぐったさと安堵が混ざったような甘い響きだった。

 腰のくびれに沿って指先で優しくなぞると、透花がびくんと小さく震えた。顔をうずめたまま、息を殺すようにささやく。


「……ちょっと、そこ……弱いから……」


 俺は慌てて動きを止めたが、透花は首を振る。


「りょ、遼君、私、まだ育成されてないとこあるよ……?」

「育成? どこ?」

「触ってみる……?」

「え?」


 そう言った瞬間、透花は耳まで赤くして固まった。体は、恥ずかしさからかぴくぴく震えている。


 数秒後――。


「や、やっぱりナシーっ!」


 透花が、シュッ! と器用に下にスライド移動して肩まで布団に潜り込んでしまった!


「わー! もう恥ずかしすぎて消えるぅぅー!」


 布団の中から、くぐもった悲鳴が届いてきた……。


「いや、消えられても困るんだけど……」


 俺は苦笑しつつ、布団の上からぽんぽんと透花を叩いた。そのたびに布団が、びくっびくっと可愛く反応する。


「……遼君、五分くらい放っといて……」

「五分!?」


 まるでフリーズしたパソコンみたいに、布団の中の透花は完全停止してしまった。ベッドの上には、透花の白いブラジャーだけが取り残されている。


(……この状況、お、俺どうすればいいんだ)


 俺が固まっていると、布団の中から小さな声が漏れた。


「私の下着、見ちゃダメぇ……」

「そ、そんなこと言われても、もう見ちゃったよ……」

「あのね、水色は今日の夜、着ようと思ってたの……」

「なんでわざわざ自分で自爆スイッチ押すの!?」


 部屋には、甘さと恥ずかしさと、よく分からない敗北感が同時に充満していた。

 ……俺の理性、この旅行中に生き残れるのかな?

 久賀遼、理性のデスゲームが開幕してしまった。

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