第17話 授業参観! クラスメイト達「朝比奈さんの親って普通だね」
一週間後、授業参観当日。
今日の授業参観は、五限目である午後に行われる。その後、保護者の懇親会などが行われるらしい。昼休みが終わると、ちらほらと保護者と見られる人たちが学校でも見えるようになってきた。
「お前の母ちゃん、美人じゃね?」
「ちょっと、その服で来ないでって言ったでしょう!」
クラスメイト達のそんな声もちらほらと聞こえてくる。隣にいる透花も今日は異常にそわそわしていた。
「緊張しすぎ」
「だ、だって、私、誰かに授業を見られるなんて初めてだし……」
あの朝比奈透花が授業参観ごときでうろたえているのが、ちょっと面白い。それから少しすると、うちの母親が教室の後ろに入ってくるのが目に入った。
「お義父さん、お義母さん! 今日は本当にありがとうございますっ!」
うちの両親の姿を見つけると、透花が真っ先にお礼を言いに行った。な、なんで、父さんまで来たんだ。他は大体、お母さんのほうしか来ていないのに。
「この人が、一緒に行きたいっていうから」
「あはは、透花ちゃんがいるから二人で来ちゃった」
うちの父さんって、こういうイベントには参加したがりのほうだけど、高校になってこれはかなり恥ずかしい。駆け寄る透花とは別に、俺は自分の席で素っ気ない態度を取ってしまっていた。
「いえ、本当に嬉しいです! 今日は宜しくお願いします!」
「透花ちゃんくらいだよ。授業参観でそんなにお礼を言う子って」
透花が、とても嬉しそうな顔でうちの父さんと母さんに話しかけている。ただでさえ目立つ存在なのに、今日はその笑顔のせいで、更に教室の視線をひとり占めにしていた。結果、なし崩し的にうちの両親も目立ってしまっていた。
「朝比奈さんの両親って意外に普通だね」
「うん、もっと怖い感じのイメージがあった」
「芸能人の両親でも普通に授業参観に来るんだ」
そりゃ普通だろうな! だって俺の親だし! あの人たち、完全に透花の両親になっちゃったよ。ここで話に混ざると、またとんでもない噂が流れそうなので、俺はもう黙ってることにした。
「遼は?」
「遼君は、あそこでふてくされた顔してます」
「あー、遼って昔からちょっとああいうところがあるから」
今、俺の話をするんじゃねぇ! 一緒に住んでるってバレたら、また大変なことになるだろうが。
「はぁ……」
結局、透花のお父さんは来なかったな……。あの日、俺は透花のお父さんとこんな話をした。
◆
「こ、今度、授業参観があるんです。良かったらどうかなぁと思いまして……」
『……』
「透花さんも喜ぶと思います! あと、俺ともうちの両親とも一度ちゃんと顔を合わせて欲しいな……なんてことを思ったり」
『すみません』
「え?」
『透花のことはお任せします。住まいの件は今、早急に動いてますので……』
「で、でも、ちょっとくらいなら!」
『私は、透花のことをちゃんと育成できなかった親なので。親としてちゃんと成長できなかった私に……親としての気持ちをうまく育てられなかった私に、透花は会いたいとは思わないんじゃないかって……』
◆
あの日、電話はそこで切れてしまった。すごく緊張してしまって、所々で情けない声が出ていたと思う。
失敗したってどういうことなんだろ。俺が電話をすることに了承したあたり、透花自身はお父さんのことを嫌ってはいないと思う。でも、お互いに他人行儀すぎて、すごく家族としての違和感を感じてしまう。
(『――透花は私の本当の子供ではないので』)
結局はこの言葉に繋がってきちゃうのかな……。そもそも、透花はそのことを知っているのだろうか。
色々な事情があるのかもしれないけど、やっぱり俺は、透花のことをもっと気にかけてあげるべきだと思っている。透花のお父さんの言い分には、「それって大人の勝手な都合じゃない?」って感じてしまっている。
……そんな風に思っちゃうのは、俺がまだ子供だからなのかな。
「遼君が難しい顔してる」
「おかえり」
透花が席に戻ってきた。透花がクラスでは見せたことないほどの、楽しそうな笑顔になっている。
「授業参観って楽しいんだね」
「俺、授業参観を楽しんでる人を初めて見たよ」
「うそー、誰かに応援してもらえるってすごく嬉しいと思うけどな」
一片の澱みもなくそんなこと言ってくるんだから。授業参観って、誰かじゃなくて親なんだけどね。
「今日は授業頑張ろ」
「今日はじゃなくて、いつも頑張れ!」
珍しく透花が教科書を広げてやる気になっている。透花って誰かに期待されればされるほど、力を発揮する女の子なんだけどな……。
「……」
透花と過ごす、今の生活はとても楽しいけど、やっぱりどこかで考えちゃうことがある。心の底で楽しみ切れていない部分がある。だって、これは透花にとってあまり良い状態じゃないから。家族との確執がそのままになってしまっているから。
俺、いつか透花のお父さんと話してみたい。そして、自分の気持ちを育てられなかったと言った、お父さんの真意を聞いてみたい。透花のために、俺はそんなことを思っていた。
◇
「お義母さん、遼君が先に帰ってるって言ってます」
「分かった。今日はお寿司買うから、夕飯は準備しなくていいからって伝えてね」
授業参観終了後、透花をメッセンジャーにして、俺は母さんと会話をする。今、俺が普通に話しかけたら絶対によからぬ噂が広まるからな!
「朝比奈さんちすごく仲良さそうでいいね」
「うん、理想の家族って感じ。とても素敵なお父さんとお母さんだよね」
「あれ? でも、炎上してた動画のお母さんってもっと怖い感じじゃなかった? 仲直りしたのかな」
もうね、朝比奈透花の家族に見えるってだけで、うちの両親の評価も爆上がりしちゃってるんだけど……。っていうか、勘の良い奴は既に気がついてる! これは早く退散したほうが懸命だ!
「透花、帰ろう」
「わっ、遼君が誘ってくれた」
「もうクラスでは隠しても無駄だからなッ!」
透花がうちの両親にペコっとお辞儀をする。父さんと母さんが、軽く手を振ったのを確認して、俺たちは教室を後にした。廊下に出ても、透花はずっと上機嫌だ。
「学校ってこんなに楽しい行事があるんだね」
「まさか、授業参観が楽しい行事にランクインする日があるとは思わなかった……」
「遼君、私ね、思ったんだ」
透花の表情が、急に真剣なものに変わった。
「私ね、なにも考えずに娘育成プランとか言ってた」
「え? そんなの別にいいと思うけど……」
「それってさ、本当の娘さんに……柚ちゃんにすごく失礼だったかも。私、柚ちゃんとちゃんと話してみるね」
「えぇえええ!? どうした急に!」
「自分の居場所がなくなるかもしれないって、とても怖いし、悲しいことだと思ったから。私、遼君の家族にはずっと仲良くしていてほしいな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます