第3話 遼君がいないと生きていけない
「いきなりすぎて、なにがなんだか……」
透花と一緒にリビングのテーブルに座って、母さんにこれまでのことをざっくりと説明した。
「遼が初めて彼女を連れてきたと思ったら、その子が朝比奈透花? で、その朝比奈さんが住んでいた家を追い出されそうだから助けてほしい……ってこと?」
「さすが母さん! つまりそういうこと!」
「そんな話、簡単に飲み込めるわけないでしょーーっ!」
母さんの声がリビングに響く! 透花がびくっと肩をすくめた。
「す、すみません……」
透花が申し訳なさそうに頭を下げるのを見て、母さんが口を開きかけたまま固まってしまった。
「いや、朝比奈さんが悪いわけじゃないのよ! ただね、いきなり過ぎて、こっちの頭が追いついてないだけで! おばさんの頭ってもう年でかちこちになってるから!」
母さんがしどろもどろになりながら弁明にする。いつものんびりしている、母さんがこんなに焦っているのが少しだけ面白い。
「あんた、子供の頃からそうだったわよね。捨て犬とか捨て猫とか、すぐに拾ってきたりして!」
……そんなこと思っていたら、俺に矛先が向いてしまった。
「いや、透花を捨て犬扱いしないで」
「わんっ」
「透花はちょっと黙ってて!」
今、親が目の前にいるんだからそれをやるな! 透花のその様子を見てまた母さんがびっくりしているじゃんか!
透花のせいで、リビングがなんとも言えない空気に包まれてしまった。
「それで、なんとかならないかな……。透花のこと、できればうちに置いてあげたいんだけど」
「……」
俺の言葉を聞いた途端、さっきまでふわふわしていた母さんの表情が真剣なものに変わる。
「朝比奈さん、本当に申し訳ないけど、それは然るべきところに相談するべきだと思うよ」
「そう……なんでしょうか?」
「学校とか警察とか児童相談所とか。人様の家を、あまり悪くは言いたくないけどそれって立派な育児放棄だと思う」
「……すみません、それでも私の親なんです。可能であればおおごとにはしたくないなぁと思ってます……」
「うーん」
透花の言葉に少しハッとさせられてしまった。あんなことがあったから、透花のお母さんにはかなり負の感情がたまっていたけど、彼女にとっては大切な家族なんだ。
(昔はこうやって、お母さんが髪をとかしてくれたなぁ……)
最初に髪をとかしたとき、透花がこんなことを言いながら涙を流していたのを思い出してしまった。きっと、お母さんに対する複雑な思いが沢山あるのだろう。
母さんはしばらくなにも言わず、テーブルの上に視線を落としたまま、手元で指を組んだりほどいたりしていた。
「……朝比奈さん、他にご家族は?」
「父がいます」
「お父さんはなにしてるの?」
「今、療養中で、連絡はほとんど取ってない状態です……」
「うむむむ……」
透花のお父さんのその話は初めて聞いた。
母さんはその話を聞いて更に頭を抱え込んでしまった。うちの親ってかなり朗らかなほうだと思うが、こんなあからさまに悩んでいるところは初めてみたかもしれない。
「私ね、久賀家を守る母親として……ううん、子供がいる親として、それを聞いたら尚更きちんとしたところに相談するべきだと思っている。朝比奈さんの家のためにも、そう思っている」
「あ、あの私!」
母さんの言葉を聞いた透花が、勢いよくその場から立ち上がった!
「私、遼君と離れたくないんです! どうしても一緒にいたいんです!」
「はぇ?」
透花の急な言葉に、母さんが変な声を出している。
「遼君がいなかったら今の私は存在しません! 私、どんなことをしても遼君と一緒にいたいんです! 私、遼君が一緒じゃないと生きていけません!」
透花がすごいことを言い始めた。いや、普通に恥ずかしい。顔がめちゃくちゃ熱くなってくるんだけど。あの母さんすら、恥ずかしそうに目を伏せちゃってるし!
「あっ、分かった! これってドッキリでしょ? 自分の子供が朝比奈透花をつれてきたら? みたいな! カメラさん、どこに隠れてるのー?」
ついには母さんがドッキリを疑い始めてしまった。
「いや、本当にそんなんじゃないから……」
「じゃあ、なんで、あの朝比奈透花がうちの息子にそんなこと言うのよっ!」
ぐぬっ……言い返してやりたいけど、言い返せない。だって、俺も逆の立場だったら、絶対に似たようなこと思ってたもん。
「……母さん、そういうことだからお願いします、透花のことを助けて下さい」
話が脱線にしそうになったので、俺は立ち上がって母さんに頭を下げた。透花も俺と一緒に頭を下げてくれた。
「うぅ」
母さんの心底困惑した声が聞こえてくる。
「それは、お父さんにも相談しないとだけど……」
「けど?」
「どちらにせよ朝比奈さんのご両親さんとは、直接お話する機会いただかないとダメだと思う。あなたたちがどう言っても、人様のお子さんを預かるなんて、そう簡単にはできません」
母さんが毅然とした口調でそう答えた。透花の両親と直接話をする機会なんて……それができたらこんな事態になってないよ。仮に話せたとしても、朝比奈のお母さんの反応が未知数すぎる。
「お父さんなら、言えばお話はできるかと……」
「えっ? そうなの?」
「遼君、私、部屋からお父さんの連絡先を書いてあるメモ帳持ってくるね! お父さんならきっと私の味方をしてくれると思うから」
そう言って、透花はダッシュで自分のアパートに戻ってしまった。透花のアパートはうちから歩いて十五分くらい。戻ってくるのは三十分くらいかかると思う。
透花が家から出て行くのを見て、母さんがほっと一つ溜息をついた。
「遼、まだドッキリの看板出ないの? 私、化粧してないから写さないで欲しいんだけど」
「まだ言ってんのかよ! ガチだから!」
「高校に入ってから、毎日なにかしてるなぁとは思ってたけど……」
透花がいなくなった部屋で、母さんがぽかーんとしている。どうやら母さんは母さんでかなり緊張していたらしい。
「どうやって朝比奈さんと出会ったの?」
「それは……」
母さんに質問攻めされる俺……。しばらくしたら、バタン! と玄関が開く音がした。透花が帰ってくるにはあまりにも早すぎる。
「ただいまー。あれっ、お兄ちゃんがいる」
げぇー! とんでもないタイミングで妹の
「お、おかえり、今日は早くない?」
「だって、今日は早上がりだもん。あっ、お母さーん! そんなことよりも聞いてよ!」
妹がソファーに荷物をおろして、母さんのところに駆け寄った。
「私、さっきね、朝比奈透花ちゃんとすれ違っちゃった! この前、お兄ちゃんと同じ高校にいるってテレビでやってたよね! うわー、近所に住んでるんだ! サインもらえば良かったなぁ」
「
母さんが、柚葉の肩の上にぽんっと手を置く。
「これから、その透花ちゃんがうちに来るから覚悟しなさい」
「どういうこと?」
「透花ちゃん、うちのお兄ちゃんと付き合っているみたいなの」
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