第44話

答えられず、目をそらした。

 その通りだ。優しくて幸せをくれる彼と離れたくなかった。だが。


 好き。


 その一言を、和未には言えそうになかった。


「君はある意味、正直だな」

 くすくすと彼は笑った。


「いつか必ず君に好きって言わせる」

「はい」

 和未はうなずいた。


 彼女の精一杯の返事に、彼は微笑む。


「離婚はしない。俺と一緒に生きていこう」

 和未は胸を熱くした。


 命令じゃない。彼は和美の意志を尊重してくれている。それがうれしくてたまらない。


 でも、もし命令だったとしても。

 和未は熱く潤んだ目で彼を見つめる。

 彼はきっと、和未が幸せになる命令だけをくれる。


「お願いします」

 幸せがこみあげ、言葉がこぼれた。


 晴仁はうれしそうに目を細めた。

 次いで、彼女を抱きしめる。


 がらんがらん、と鐘の音が響いて来た。

 祝福の音のようで、和未は目を閉じた。


 晴仁の温かい胸に抱かれ、和未は幸せを噛み締める。

 海の絶え間ない波の音が響く中、二人はいつまでも抱きしめ合っていた。



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人助け契約婚の結末 ~守るからここにいろ。副社長の優しくて幸せな命令~ またたびやま銀猫 @matatabiyama-ginneko

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