第36話

そんなばかな。

 彼は慌てて追跡アプリを立ち上げた。

 彼女のスマホのGPSは、彼女の実家を示していた。


 直後、晴仁は副社長室を飛び出した。

 炎上の対応のために来ていた弁護士に緊急だからと頼み、一緒に来てもらった。企業法務が専門だから民事には疎いだろうが、弁護士の肩書は武器になる。


 タクシーに乗ると秘書に電話をした。自分ぬきで会議を再開してくれ、と。

 副社長がいないなんて、と秘書は悲鳴に似た声を上げたが、緊急事態だ、と押し通した。


 通話を切ると、すぐにスマホを操作した。

 和未の無事を祈り、現時点で打てる手はすべて打つ。


***


 インターホンが鳴って、紅愛たち三人は顔を見合わせた。

 紗世子が出ると、晴仁とスーツを着た年配の男性が映っていた。


「妻が来てますよね」

 低く唸るように彼は言う。


「来てませんよ」

「ならば警察を呼びましょうか」


 警察の単語に紗世子は動揺し、玄関に対応に出る。

 扉が開いた瞬間、晴仁は中に飛び込んだ。


「なによ!」

 紗世子は慌てて追いかける。


 彼はリビングに駆け込む。

 ぐったりと倒れている和未の姿があった。

「和未さん!」


 和未は晴仁を見て目を丸くした。

 起き上がろうとする和未を制し、晴仁は彼女の頭を撫でた。彼女の肌が赤く腫れあがっているのを見て激怒に燃える。


「失礼します」

 年配の男性が入ってきた。

 彼は状況を見て、すぐに119番通報と110番通報をする。


「絶対に許さない。お前らには相応の罰をくらってもらう」

 晴仁の言葉に、達弘が笑った。

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