第33話

「これは没収よ」

「返してください。私のものじゃないんです」


「泥棒したのね。服を盗むだけのことはあるわ。くず。生きる価値なし」

「違います。お借りしてるだけです」


「私が返しておいてあげるわよ」

 紅愛が蔑みの笑みを浮かべた。


「スマホケースなんて生意気」

 紅愛はケースを外して床に落とすと、踏みつけた。


「やめてください!」

 和未は慌てて手を伸ばす。紅愛はその手を踏みつけた。うう、と痛みに声をもらす和未を見て満足そうに目を細める。


「まずは離婚だな」

「離婚なら慰謝料がもらえるんじゃない?」

 達弘の言葉に紅愛がはしゃぐ。


「勝手に出て来たなら慰謝料は無理だ」

「DVがあったことにすればいいのよ」

 名案だ、と言わんばかりに紗世子が言う。

「あの人はそんなことしません! 優しくて素晴らしい方です!」


 紅愛は和未の髪を引っ張った。

「痛い!」


「あんたの意見なんて聞いてないの」

 紅愛は髪をひっぱり、和未の頭は振り回された。


「DVならケガさせておかないとね」

 髪を捨てるように離し、紅愛は言った。


「それもそうだな」

 言いざま、達弘が和未を蹴った。勢いで和未は仰向けに転がった。

 その足を、紅愛が蹴る。痛くて、足を抱えて丸くなった。


「あんたなんか大っ嫌い!」

「うじ虫の方がまだ世の中の役に立ってるわよねえ」

 紗世子はほうきを持って来て、その柄で和未の背を殴る。


 痛みにうめく和未を、さらに三人で殴り、蹴る。

 三人の笑い声が、ぐわんぐわんと頭に響く。


 虐待をする者にとって、それはエンターテインメントだ。だからどんなに和未が苦しんでもその行為をやめない。


 ふいに、昔見かけたテレビのワンシーンが頭に蘇った。

 テレビの中の人物は、人には役割があるんです、と言った。

 当時、掃除をしながら、気になって耳をそばだてた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る