第7話
顔を上げると、背の高い男性が和未を見下ろしていた。さきほど見とれた焦げ茶の髪の青年だ。
「汐路和未、間違いないな?」
聞かれて、思わず頷いた。
「お前はなんだ、失礼だな」
権蔵が不機嫌に言う。
「彼女は俺が嫁にする。お前に用はない」
「なんだと!?」
権蔵は怒り、次いで和未を見た。
「お前、男がいたのか! 処女とか言って騙したのか!?」
なにが起きているのかわからなくて、和未はただ首を振った。
「これは一応、見合いだろ? 彼女は結婚を断った。騒ぐほどのことじゃない。結婚は本人の自由意思によると法律でも決まっているからな」
せせら笑うように言い捨て、彼は和美の腕を取って歩き出す。
「ふざけるな!」
怒る権蔵は、追いかけようとして転んだ。
青年は一顧だにせず、ずんずんと歩く。
「待ってください!」
和未は慌てて彼を止める。
「私、行かないと。でないと……」
「あの好色老人と結婚したいのか?」
和未はピタッと止まる。
結婚したいなんてこと、あるわけがない。だが言いつけを守らない場合……。
「帰ったら殴られるんだろう? 俺と一緒に来い。逃がしてやるから」
逃げるなんてとっくの昔にあきらめていた。
お金は一銭もないから交通費すらない。
小学生のころ、逃げだしたことがあった。
警察に見つかって家に連れ戻され、その後ひどく暴力を受けた。
それ以来、逃げるのは諦めていた。
逃げる。
そんな夢のようなことができるのだろうか。
「まどろっこしいな」
彼は和未を抱き上げた。
和未は驚きのあまり声も出ない。
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