第12話 結果は、先走らないこと
金曜日、教室に入ったももの目に入った稔の姿はいつもと異なっていた。いつもなら何処かのタイミングで話しかけてくる筈であるが、昼休みに入っても一言も会話していなかった。
ももは昼休みになると机に横にかけていた白いコンビニの袋を取り出した。中から二つの総菜パンと一つの菓子パンを取り出した。
袋を開いて、パンを口に入れていく。ももは食べる以外の意識がぼーっとしていた。徐々に生徒が教室から減っていく。吸い込まれて戻ってこない蟻地獄のように人の数は減っていった。
「浅村さん」
瞳は廊下にて、前にいた女子生徒に話しかける。特徴的な水色の長い髪が目印の人物は瞳と同じクラスの生徒であった。
「ひとみん」
「ミカ、見なかった?」
「見てないけど」
「そう」
「見たら探してたって教えるよ」
「お願い」
そう口にして瞳は別れた。頭の中で校内でいそうな場所を端から思い浮かべていくが、どこもはずれであった。
スマホに掛けても繋がらない。可能性は無くなり始めていた。
こういったことはたまにある。いつも何処からか現れるだろう。けれど、時間を待っていられない事情があった。
「ミカはこういうときつかまらない」
周りに聞こえるか聞こえないか。それくらいの声で瞳は呟いた。
探しているうちに時間はタイムアップとなった。予鈴が鳴る。あと五分しかない。瞳は諦めた時、不規則に階段を降りる足音が聞こえた。振り返るとそこにはミカが二階から降りてきていた。
「面倒なものね」
「ん」
長い付き合いだからもうわかっていた。何か口にする気にはならない。関係性が構築されていた。
放課後、ミカは瞳と近くのコンビニに来ていた。学校の正門から出ると、北西にある地下鉄の駅とは反対方向に一番近いコンビニが存在した。
学校からコンビニまでは南に五百メートル離れていた。五百メートルと言っても学校からは下り坂になっている。それほど長い距離にも感じないが、コンビニから学校までは上り坂になってしまう。学校帰りに寄る生徒は限られた。
二人はかごを持って、店内を隅から隅まで回っていた。必要な商品をかごに入れてレジへ持っていった。
瞳は先に店内から出て、駐車場でミカが出てくるのを待っていた。駐車場は車が二十台は停められる広さであった。だが、今の時間帯は車が一台もない。
ミカが店内から出てきたのは二、三分経過した頃であった。片手に持った大きいサイズのレジ袋はパンパンに膨れ上がっている。
「行こう」
二人はそういって先の見えない上り坂を足並み合わせて上っていった。
「ミノになんか言ったの?」
「けん制。まあ、これであお先輩の思いとは裏腹な結果を生んだことは事実だけれど」
悪びれることもない。ミカはいつも同じである。彼女から通して全てを見れば、答えは大きく変わっていた。
その内心はこう言いたい。人間は誰しも全てを客観的に捉えることはできないのである。殆どは好き嫌いで決まっていく現実への皮肉があった。
「でも、変わるよ」
根拠のありそうでない言葉を吐く。瞳は瞬きをして、上を向いた。
「もう夕方か。誰のせい?」
「さあな」
「今日、夜ご飯一緒に食べない?」
「ん」
「親もミカを呼べばって言われて」
「珍しいね」
「別に嫌っている訳じゃないから」
「じゃあ、行っていい」
二人が話しているうちに上り坂は頂上へ近づいていた。学校の敷地を囲う塀が見えている。
二人は正門から校舎内に入っていく。正門から校舎に続く道はアスファルトで舗装されていた。端には駐車場が設けられており、教職員が駐車出来るスペースが存在する。しかし、車が正門から直接出入りすることは禁止されていた。
校舎の奥から人の声が聞こえる。グラウンドは校舎に隠れた位置にあるため、外から様子を見ることは出来ない造りであった。
「そういえば、この前侵入したタカ高の生徒ってどこから入ったんだろう」
足を止めて周囲を見渡すミカ。瞳はそれに気づいて振り返った。
「車が入る裏からよ。まあ、あの場所に行くのなら、裏から入る方が近いから」
「そう」
二人は校舎内に入る。日の光が入らない薄暗い玄関口に下足箱が設置されていた。二人は靴を下足箱にしまい、学校指定の上靴に履き替えていた。
「あの事件も曖昧に決着をつけたみたいね」
「そうなんだ」
ぎこちない言い方だった。ミカは府に落ちないのだろうと瞳は思っていた。だからといって掘り返したりするタイプではない。
「結論は先走らないこと」
意味深なことを発する。でも意味はすぐわかる。
ミカが玄関のすのこから建物の床に足を置く。廊下は吹き抜けになったガラスから光が差し込んでミカとその周辺を照らしていた。
「さあ、行こか」
前から引っ張るかのごとくミカは進んでいった。
それは瞳の迷いも打ち消す為に霧払いをする。ミカは迷わないよう、先頭を走っていった。
二人は二階にある一年生の教室が並ぶ廊下を歩いていた。東から一組、二組と続いている。
二人が入った教室は三組であった。放課後の閑散とした教室に一名の生徒が残っていた。
教室に入って来れば扉が開く音で気付くであろう。残っていた生徒は手元のスマホ画面から目を離して顔を上げた。
「待っていたよ」
教室の右端にももは座っていた。入ってすぐの場所に鎮座していた。
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