ヒーロー戦隊リーダーが突然消えた! 事件解決に立ち上がるのはサイドキック!!

清泪(せいな)

かざせ、正義! ジャスティス・ブレイバーズっ!!


 変身ヒーローチーム《ジャスティス・ブレイバーズ》の秘密基地に緊張が走った。

 リーダーであるブレイブレッドこと天城ハヤトが、突如として姿を消したのだ。


「あり得ない……! さっきまで訓練ルームにいたのに」


 そう呟いたのは、チームのサポート役である久堂ユウキだった。

 《ジャスティス・ブレイバーズ》の基地は厳重なセキュリティに守られており、外部からの侵入や脱出は不可能。

 つまり、ハヤトは基地内で姿を消したことになる。


「ハヤトが消えるなんて、信じられない……」


 ブレイブブルーの篠宮カズキが冷静に言った。

 だが、その目に浮かんだ微かな不安の色が、ユウキの目を引いた。

 カズキは普段から冷静で強い人物だ。

 だが、今日は何か違和感を感じさせる。


「あり得るかもしれない……」


 ユウキはゆっくりと呟いた。


「もし敵の仕業だとしたら、やり口がもっと巧妙だと思う」


「俺たちの基地にそんな隙間があるわけないだろう!」


 ブレイブグリーンの柊アキトが声を荒げた。

 彼の声には、普段見せない焦りが混じっていた。


「少なくとも、誰かが基地内に侵入した形跡はない。それに――」


 ユウキは訓練ルームの監視カメラのデータを再生した。


「ハヤトが姿を消した瞬間、周囲には何も映っていなかった」


 ユウキは冷静さを保とうとしながら、同時に胸の奥に一抹の不安を抱えた。


「もし──彼が自分から消えたんだとしたら?」


「自分から? どういうことだ?」


 アキトが疑問を投げかける。


「もしかすると、彼はどこかで自分を犠牲にすることを決めたのかもしれない。」


 基地の空気が張り詰める中、ユウキは自分の思いを繰り返し噛みしめていた。

 リーダーの突然の消失が、何か計画的な動きに繋がっていると感じ取っていたからだ。


 しかし奇妙だったのは、画面に映るハヤトが消失する直前の動作だった。


「ブレイブ・オン!」


 ハヤトは変身アイテムを手に持ち、掛け声を発していた。

 そして光に包まれた次の瞬間、そこにいたはずの彼の姿は消え、スーツだけが床に残されていた。


「まるで……変身と同時に蒸発したみたいだな」


「そんな馬鹿な話があるかよ!」


 アキトが声を荒げる。


「変身スーツは装着者の体と一体化する仕組みだ。着脱は通常不可能だし、こんな形でスーツだけ残るなんて……」


「何か、トリックがあるはずだ」


 ユウキはスーツを調べながら呟いた。そのとき、通信ログに奇妙な記録を見つける。


──オーダーコード:スリープモード


「……オーダーコード?」


 《ジャスティス・ブレイバーズ》の変身システムには、戦闘支援のための『オーダーコード』が存在する。

 リーダーが特定の命令を発することで、メンバーのスーツに特殊な動作を指示できるシステムだ。

 例えば、『オートガード』で防御強化をしたり、『ブーストアップ』で瞬発力を向上させたりできる。


 だが、ユウキは疑問を抱いた。


 『オーダーコード:スリープモード』──これは聞いたことがない命令だった。



「これはおかしい……」


 ユウキは再び監視カメラの映像をチェックした。


「このコマンドを使ったのは……」


 ユウキはすぐに、基地内のコンピュータに接続して、オーダーコードに関するデータを引き出した。

 すると、彼はすぐに異変に気づく。

 オーダーコードは通常、リーダーのみが発行できるものであり、これを使えるのは現リーダーである消えたハヤトと以前リーダーだったブレイブイエローの結城ナオトであったことがわかった。


 ユウキはハヤトの消失の真相に近づくにつれ、次々と不自然な点に気づき始めた。

 だが、同時に周囲のメンバーにも疑念が湧いてきた。


「ハヤトが消えたのは、リーダーの命令オーダーコードがあったからだろ?」


 カズキが言った。

 彼の冷静な態度が、ユウキには少し違和感を覚えさせた。

 カズキは普段、こんなにも落ち着いていない。

 何かを隠しているのではないか。


「カズキ、あんた、少し冷静すぎやしないか?」


 ユウキの言葉に、カズキは少しだけ眉をひそめた。


「何を言っているんだ? 俺はただ、冷静に事実を確認しているだけだ」


 その言葉に、ユウキは何も言い返せなかった。

 だが、心の中で、カズキが何か知っているのでは?、という思いが膨らんでいった。


 さらに、アキトも普段の明るさを見せずに、どこか不安そうにしていた。

 彼が言った言葉はこうだ。


「もし俺がリーダーだったら、あんな無茶な命令は出さないよ。ハヤトのやり方には疑問を感じていたんだ」


「だから、アンタが犯人だって言いたいのか?」


 ユウキは冷ややかに答える。

 アキトの目が一瞬だけぎょっとしたように見えた。


「違う。俺はハヤトを助けたいだけだ」


 だがその不安な表情に、ユウキは一瞬、アキトが何か隠しているのでは?、という思いがよぎった。


────


 仲間たちへの拭えない疑念を抱きつつ、ユウキはハヤト自身が自ら消えたのかもしれないという不安を解消するために、ハヤトの部屋を調べに行った。

 そして、そこに残された手紙を見つける。

 それは、ハヤトが事件前に書いたものだった。


「ユウキ、ナオト、カズキ、アキトへ。もしこの手紙を君たちが見ているのなら、僕はもういないのかもしれない。これを読んでいる時には、僕のいない世界になっているかもしれない。僕はリーダーとして、君たちを守ることを誓った。でも、僕はその誓いを守ることができなかったかもしれない。チームを引っ張ることができず、仲間を傷つけ、誤った決断をしてしまった。だから、どうか僕がいなくても、君たちで力を合わせて生き抜いてほしい。このチームは、君たち一人一人の力で成り立っているんだ。だから、僕は……君たちに任せる」


 手紙は、ハヤトが自らのリーダーとしての限界を感じ、過去の決断や誤りに苦しんでいたことを明かしていた。


「ナオトには謝りたいとずっと思っていた。君が本来のリーダーであり、そして本当のリーダーとして再び戦う時が必ず来ると思う。だけど、それには自分を信じ仲間を信じる力が必要だ。君の判断が、チームを新しい未来へ導くことを信じている。」


 だが、ユウキはその深い責任感と誠実さに触れ、ハヤトの決意を理解しようとしていた。


 事件が進行する中で、ユウキは次々と疑念を抱く。

 カズキが何かを隠しているのではないか、アキトの行動にも不審な点があると感じる。

 だが、どれも証拠には繋がらない。


 ユウキは、ナオトがリーダーの座に就いた後、そのプレッシャーに押し潰されていたのではないかと考え始める。

 ナオトは、ハヤトの理想的なリーダー像に圧倒され、同時に自分の不安や未熟さを抱えていた。

 それが、事件に繋がったのかもしれない。


────


「ここに、オーダーコード:スリープモードの記録が残っている」


 ユウキは冷静に告げた。


「……犯人は、ナオト、お前だ!」


「なっ……!?」


「オーダーコードはリーダーだけが使えるものだ。しかし、例外として前回リーダー権限を持っていた人物も、特定の状況下で命令を発行できる。それがお前だったんだよ、ナオト」


「そ、そんな証拠がどこに……!」


「お前が使った『スリープモード』は、通常は存在しないオーダーコードだ。だけど、特別な管理者用プロトコルとしては一時的に使用できる隠しコマンドだったんだ」


 ユウキは、ハヤトのスーツが床に残されていた理由を説明した。


「お前は、ハヤトが変身する直前に『スリープモード』を発動した。その瞬間、スーツの装着が強制解除され、ハヤトの体は『意識不明の状態で自動転送』されたんだ。転送先は、基地の地下倉庫……おそらく、そこに彼が閉じ込められている」


 ナオトは息を呑んだ。


「お前しか、この隠しオーダーコードの存在を知るはずがない。そして実際に命令を発行できたのは、以前リーダーを務めたことのあるお前だけだったんだ」


「……」


 長い沈黙の後、ナオトは静かに口を開いた。


「……すまない、ハヤトは地下倉庫にいる」



ーーーー


 ハヤトは無事に救出された。

 ナオトは俯きながら語る。


「……俺は、ハヤトを止めたかったんだ」


「止める?」


「最近のハヤトは、戦い方が無謀すぎた。チームのためとはいえ、危険な作戦ばかりを選ぼうとしていた。『オーダーコード』もできる限り使わないようにしていた。それが正しいことだとわかってはいたけど……俺は不安だったんだ」


「だから、強制的に命令を使わせたのか?」


 ナオトは頷いた。


「俺は、ヒーローは『リーダーの命令に従うもの』だと信じていた。けど、ハヤトは違った。だから、一度彼を止めて考え直させるために……」


「でも、それじゃ意味がないよ」


 ユウキはナオトをまっすぐ見た。


「ヒーローに必要なのは、命令に従うことじゃない。自分の意志で正義を選び取ることだ」


 ナオトはゆっくりと目を閉じた。


────


 事件が解決した後、ユウキは基地の一室で集まったメンバーに向かって言った。


「ハヤトが残した言葉、そして僕たちの誓いを守ろう。僕たちには彼が求めていた未来を作る責任がある」


 カズキが言った。


「でも、ハヤトがいなくなった今、俺たちはどうすればいい?」


「それを考えるのは、今からだ。僕たちがチームとして進むために、どうすればいいか。それをハヤトが教えてくれたんだ」


 ユウキは答えた。


「俺たちで、前に進んでいこう。どんな時でも、今度は俺たちの力で」


 アキトが強く言った。


 ナオトはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げて言った。


「俺は……ずっと、ハヤトがリーダーとして完璧過ぎると思ってた。自分にはその資格がないと思ってたんだ」


 ナオトは、苦しみながら続ける。


「でも、ハヤトが言ってくれた言葉が、俺の心に響いた。『お前がリーダーになった時、今度は自分を信じろ』――その言葉を受け入れることができたら、俺も本当のリーダーになれると思ってた。でも、あの夜、どうしても自分を証明しなければならないと思い込んで……結果として、ハヤトの意志を裏切った」


 ユウキはナオトの目を見つめ、そして静かに答えた。


「それを悔いるなら、前に進める。ハヤトが教えてくれたのは、その『信じる力』だ。」


 ナオトは深いため息を一度つき、決意を固めた目で仲間たちを見回す。


「俺は、もう一度リーダーとしてやり直す。ハヤトが残したものを、みんなで守るために」


 その言葉を聞いたユウキは微笑み、全員が静かに頷いた。


 ユウキは全員を見渡し、語りかけた。


「ハヤトが残したもの、そして彼が教えてくれたことは、僕たちの中に生き続ける」


「俺たち、次は絶対に負けない。ハヤトのために」


 カズキがユウキの言葉に続ける。


「みんなでまた一緒に戦おう」


 アキトもまた笑顔を浮かべ、それに続く。


 ユウキは微笑み、心の中で誓った。

 ハヤトの手紙に込められた思いを、今度こそ彼らの力に変えていくことを。


 ユウキは基地の窓から外を見渡す。

 空は広がり、新たな冒険へと続く道が見えるような気がした。

 今度こそ、チーム全員が力を合わせ、信じ合って未来へ進んでいけるのだと確信しながら、ユウキは仲間たちの元へ向かう。


「前を向いて進んでいこう」


 ユウキは呟いた。

 これからが本当の戦いの始まりだ。

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