第23話 最終話

 最終的に狭間の目を覚まさせる方法は、雪歩から狭間に別れを告げることだった。例え、俺と雪歩を引き剥がせたとしても、狭間とは絶対付き合えないと知ることで、狭間の想いを断つことができる。


 色々と揉めることもあったけども結果的に俺たちは成功した。


「全て終わったな」


「うん、そうだね」


 俺は雪歩と将来を誓い合った。雪歩は子供を産むことができない。だからこそ、ただ付き合うだけでは駄目なのだ。


 これから俺たちには色々な試練があるだろう。父親への説得だってしないといけないかもしれない。ただ、母親と姉に話すとふたりとも力になってくれると言ってくれた。


 姉はわたしが誰かを婿養子にすれば良いだけだよ、とまで言ってくれた。母親も家系などどうだって良いと言ってくれた。


 父親がこのことを知った時、別れさせようとするかもしれない。その時、子供のことで雪歩に強く言うのであれば、父親と離縁したって構わない。


「もっと早く言ってくれたら良かったのにさ」


「ごめん、颯太に嫌われるのが怖かった。だから言い出せなかった」


 俺は雪歩を抱き寄せた。そして、ゆっくりと唇に触れる程度の優しいキスをした。


「ありがとう」


「俺の方こそ、ありがとう。本当に良かった」


「良かった!?」


「うん! てっきり振られたのかと思ってた。だから、良かった」


「でもさ、颯太、子供好きでしょう」


「将来、子供が欲しくなったら養女でも迎えるといいよ」


「女の子限定なの?」


「男の子でも良いけど、跡継ぎにするって騒がれるの嫌なんだよ」


 そうだ。父親の思うままになってたまるか。


「ふふふっ、まあ、わたしはどちらでもいいな」


 俺と雪歩ふたりだけでも構わない。もし、ふたりだけで寂しいならば、そして雪歩が望むのであれば、養子を取ればいいだけなのだ。


「行こうか!! 雪歩!!」


「うんっ、颯太。はいっ」


 雪歩は手を伸ばしてきた。俺がその手を握ると雪歩は俺の指の隙間に指を入れてくる。雪歩と手を握ることは今までもあったが、恋人つなぎは初めてだった。


「これで、私たち恋人同士に見えるかな」


「別にそんなことしなくても、誰が見ても俺たちは恋人同士だよ」


「ねえ……」


「なんだ!?」


「わたしね、行きたい大学があるんだよ」


 雪歩は東に向かって指を差した。あー、分かるよ。小学校、中学校、高校とずっと同じ学校へ通ってくれた。でも、大学はきっと同じにはならない。だって、そこは……。


「ねえ、颯太。颯太もさ、一緒に行こうよ東大」


 流石に俺の成績では無理だ。雪歩と一緒に勉強して分かった。雪歩の勉強に対する姿勢は俺とは全く異なる。俺はそうはなれない。


「なあ、どうして……行きたいんだ」


「わたしね。今の日本が誇れる国だと思えなくなってる」


 雪歩らしいな。俺たち平成生まれは、先人が食い潰してしまった日本と言うものを見て来た。昭和の強かった日本はアメリカ、中国などの介入により、技術面で劣る国にされてしまった。それはここまで円安に振れているのを見るだけでも明らかだ。


 外食、食料品、生活品、そしてスマートフォン。全てが高くなっていった。


「わたし達が何を出来るかなんてわからない。でもね、せっかく産まれたんだから、必死になって足掻いてみたい。日本を救いたいなんて、おこがましいけどね」


「ああ、雪歩なら、きっと出来るよ」


「ああっ、また他人事だよ」


「へっ!?」


 雪歩は俺の手を強く握って来た。


「わたしには夢があるんだ」


「その夢って……」


 雪歩は今までずっと我慢して来たのだろう。ずっと迷い続けて来たのだろう。自分は子供を宿すことができない。でも、だからこそ、みんなとは違う目標に向かって生きたいのだろう。


「颯太と一緒の大学に通うこと!!」


「ちょっと待って!! それって俺も東大を目指すってこと!!」


「大丈夫だよ!! 颯太ならできる!!」


 流石にそれは買い被り過ぎと言うか。たった一回のテストで狭間よりも上の成績になったくらいだぞ。


「実はね、あのテスト、結構ギリギリかな、と思ってた。颯太の本気見てなかったからね」


「えっ!? 嘘だろ」


「結構、ハラハラだったんだよ。でもね、颯太はわたしが思った以上の成績を出してくれた。大丈夫だよ、絶対受かる!! だって、わたしと今日から毎日勉強するんだからね」


「えっ!? 今日から!?」


「もちろんだよ。わたしたちには後一年しか時間が残されてないからね」


「お手柔らかに……」


 俺がそう言うと雪歩はクスクスと笑った。本当にこの娘は自分の目的のためならば、手段を選ばない。


「わたしが科学者、颯太が政治家になって、この日本を変えたい。きっと大丈夫だよ、わたしたちならできるよ」


 雪歩の言うことを聞いてたら、出来るような気がした。それはそうと……。


「もし、あの時負けてたら、狭間に……」


「聞きたい!?」


 そうだ。負ける可能性だって充分あったのだ。


「その時は颯太にわたしが子供を産めない身体だと告白するつもりだった」


「なにそれ?」


「狭間と付き合うくらいなら、一か八か颯太が本当に狭間の言うように子供の産めない私じゃダメか聞くよ。もう後がないからね」


 なんとなく分かった。雪歩はこのぬるい関係を維持できると思っていたから、ずっと友達を維持してきたんだ。


「それで、狭間の言ってることが嘘なら、それを理由に颯太と付き合うつもりだったんだよ」


「えっ、でも、それじゃあ、狭間との約束は……」


「わたしに嘘をつく狭間との約束を受けてあげるほど、わたしは甘くない」


 そう言ってニッコリと微笑んだ。なるほどな、結局どっちに転んでも、俺は雪歩と付き合ったと言うことだったのか。


「だからね、颯太、覚悟しといてよね。わたし絶対颯太と同じ大学行くからね」


 雪歩はそう言ってグイグイと俺の手を引っ張る。その姿を見て雪歩と一緒なら出来るような気がした。

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冬月さんは僕をからかう 楽園 @rakuen3

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