英国史への愛が息づく“赦しの革命”——『リンデル王室史話』の魅力を語る

 まるで時代の転換点に立ち会うような、心震える歴史絵巻でした。滅びゆく魔法文明と台頭する科学、そのはざまで揺れ動くリンデル王国――そんな激動の時代に、静かに「赦しと理解による革命」を志すアルス王子の姿に、理想と現実がせめぎ合う痛みと希望を感じずにはいられません。
 
 なかでも私が強く心惹かれたのは、皮肉屋の士官ジャックです。彼は過去の傷や現実への諦観を抱えながらも、アルスのひたむきな信念に触れるうちに、かつて信じることをやめてしまった「人の力」を、もう一度手にしようと歩み出します。その変化は、ただ主従という枠を超えた魂の交流であり、重厚な政治ドラマの中でひときわ鮮やかな人間味を灯していました。
 
 そして、この作品からは作者でも雷師ヒロ様の英国史やイギリス文化への深い敬愛が滲み出ています。辺境の霧、寄宿学校、産業革命の影、議会制の萌芽――細部に宿る英国的モチーフが、架空世界に確かな重みと現実感を与えているのです。政治劇に息づく人間味と、希望を手繰り寄せるドラマは、歴史ファンタジーが好きな方、そして「信じる力」をもう一度思い出したい方に、ぜひ手に取っていただきたい作品なので、ぜひお勧めしておきます。

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