第6話
「ごちそうさま。美味かった」
ルシファーが、ウェイターに笑いかける。彼は、震える手で5,000円と名前を書く紙をルシファーに渡した。
「あの、こちら、景品の5,000円でございます。それと、こちらにお客様のお名前を……」
「俺の名か?」
ルシファーは、ペンを取ると、ササッとサインをした。「Lucifer」と書いてあるらしかったが、誰も読めなかった。
結局、綾香のパフェを手伝って(勿論、綾香が代金を払った)、お腹も背中も重くなり、瑠奈は、ハアハア言いながら帰宅する。家の中から甘い匂いがする……。
「おやつかっ!」
たまりかねたように、ルシファーがリュックから飛び出す。読んでいた広辞苑を瑠奈に渡すと、台所へ直行した。台所では佳子がシュークリームを作っている最中だった。
こうして、超食欲旺盛な超絶美形の悪魔は、1週間、瑠奈の家に滞在した。
今夜、下に行くということを聞かされた佳子と達夫は、相談して、
「今夜は焼き肉にしましょう。伊達さん、たくさん食べてね」
ということになった。
ルシファーが本気でたくさん食べたら、どれだけ食べるのか恐れながら、瑠奈は、母のその言葉を聞いた。
「ほお〜。久しぶりに焼けた肉の匂いがする」
悪魔よ、その表現は、正体を知るものには恐怖でしかないからやめてくれ。そう思いながら、瑠奈は「焼肉のタレ」の器をルシファーに渡す。
タレにつけた肉を一口。
「おお!! これは美味い!」
「あら〜、よかったわ」
と、佳子。
「ほら、どんどん食べて。しっかり体力をつけて行きなさい。君、痩せ過ぎだぞ?」
達夫もビールを勧めながら笑う。
幸いなことに、普通の男性の3人前くらいしか食べずに終わった。佳子のデザートが余程早く食べたかったのだろう。
夕飯後、ルシファーが、瑠奈に連れて行ってほしいところがあると言う。
「今からですか?」
「買っていかねばならぬものがある」
「買っていかねばならぬもの?」
ルシファーは、スーパーに連れて行けという。そして……
「これを一箱もらおう」
近くにいた女性店員に、焼肉のタレ一箱を持ってくるように言った。店員がちょっと固まっている。瑠奈はすっかり慣れてしまって忘れていたが、こいつは簡単に連れ歩いてはいけない犯罪級の美形だった。
「ルナ、これで間に合うか?」
スパゲッティチャレンジの賞金5,000円を瑠奈に渡した。
「金など、持っていても仕方がないが、物に換えれば持って帰れるからな」
いや、そんなことより、焼肉のタレは、いつ使うつもりなんですか? 瑠奈はそっちの方が気になっていた。
どうやって持って帰るつもりなのか心配したが、そのへんは問題なかった。
ルシファーのスーツのポケットには、焼肉のタレの瓶が一箱分、スルスルと入っていく。某猫型ロボットの便利なポケットのように。
「世話になった。では……」
玄関で珍しく丁寧にお辞儀をすると、両親に見送られながら、ルシファーは外に出た。そして、
「ルナ、また下で会おう!」
そう言うと、ルシファーは飛び立ち、闇へと消えて行った。
「何気に地獄に落とすのやめてくれない?」
瑠奈は、真っ暗な空に向かって呟いた。
あれから3ヶ月。
最初の3日くらいは、刺激的な1週間から解放されて、瑠奈は、なんとなく脱力していた。もしかして、自分は、あの悪魔に恋愛感情でも持っていたのかとさえ錯覚する。いや、犯罪級の超絶美形では、一緒に並んで歩くことさえ難しい。
だからって、毎回背負って歩かないといけない彼氏ってどうなの?
「あいつ、最後の方、漫画20冊くらい人のリュックに詰めてたからな……」
本棚に住まわせておけば、勝手に好きな本を読んでいるだろうから、何も毎日学校に連れて行く必要はなかったように見えるが。そう見えて、佳子が何か作る度に、台所に降りて行くに違いない。そうすると、実はバイトになど行ってないことや、ひょっとしたら、素性までバレて、厄介なことになるかもしれなかった。
そのリスクを考えると、毎日担いで行くより仕方がない。弁当も2人分だったし。優しい母、佳子はルシファーに沢山食べさせるべく、でっかいタッパーウェアに弁当を作ってやっていた。
それらを全部、瑠奈は背負って通学していたのだった。
「キツイ筋トレだったわよ……悪魔め」
足下に向かってボヤく。
「ただいまぁ」
玄関を開けると、男性物の靴がある。
「お客さん?」
母に聞こうと台所へ。
そこには……
「…………」
「ルナ、やっぱり佳子のプリンが一番だな」
黒尽くめのスーツを着た、超絶美形なヤツが座っていたのだった。
〈了〉
落ちてきたのは食欲旺盛な超絶美形 緋雪 @hiyuki0714
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