第5話

 翌日、瑠奈は、ルシファーを着替えさせ、リュックに漫画5冊と母所有のレシピ本3冊、ルシファーが今読んでいるという広辞苑1冊に「悪魔の栞」を挟み込んで入れた。

 なかなか重量級のリュックができた。

 悪魔よ、何故お前は広辞苑を読んでいるのだ……。


「お待たせ……」

 ハアハア言いながら、瑠奈は待ち合わせ場所に着く。

「何、その大荷物?」

 当然、綾香には驚かれる。

「いや、ちょっと、そこの本屋さんで本買ってきたから……」

 誤魔化す。

「で、こっちが、親戚のお兄ちゃん」

 瑠奈はルシファーを紹介した。

「伊達ルシファーっていうの。ハーフなの。ちょっと日本の生活に慣れてないから、たまに変なこと言うけど気にしないで」

 瑠奈は、先に逃げ道を作っておいた。

「やあ、アヤカ。ルシファーだ。よろしくな」

「…………」

 あー、ここでもか。綾香の目がハートになって、固まっている。

「ちょっと『見た目』はいいの。気にしないで。さ、チャレンジ行くんでしょ?」

「あ、チャレンジ、行こう行こう!」

 綾香は踵を返すと、早足で店へと歩き始めた。彼女の中では、「豪快パフェチャレンジ」と「超絶イケメン」は同じくらいの価値らしい。


 店の中に入ると、割と沢山のお客さんが来ていた。今日は豪快パフェチャレンジの人はいないらしい。たまに、「お腹たぷたぷオレンジジュースチャレンジ」をしている人がいて、金魚鉢のような器に入ったオレンジジュースを、困ったように飲んでいたりはしたが。


「豪快パフェチャレンジを……えーと……」

 注文を取りにきたウェイターに、綾香が注文しかけて、瑠奈たちの方を見る。 

 瑠奈は首を横に振り、

「私は、普通サイズのフルーツパフェで」

 と言うが、ルシファーは、綾香に尋ねる。

「その『豪快パフェチャレンジ』というのは美味いのか?」

「お、美味しいですよ。ちょっと、その、量が多いっていうか……あの……」

 ウェイターが横から説明になっていない説明をする。

「よし、俺もそれにしよう」

 ルシファーは、そう言って注文し、店を見渡した。


「おい、ルナ、あれは何だ?」

「あ……スパゲッティチャレンジしてる人がいる……」

「あれ食べると逆に5,000円貰えるんですよ。豪快パフェは無料になるだけだけど」

 綾香が苦笑しながら答えた。

「って言っても、あれ完食できた人、まだ3人ですからね、ほら」

 綾香が指さす方を見ると、スパゲッティチャレンジのポスターの下に、その3人の名前が書かれていた。

「元プロレスラーと、お相撲さん二人だったらしいよ。ちょっとやそっとお腹が空いてる貧乏人くらいじゃ、とてもとても。」

「だよねえ、2,800円払って終わりなのにねえ」

 瑠奈も気の毒そうな顔をした。


「スパゲッティ。佳子のレシピ本にあったな。とても美味そうだ。何より色がいい。」

 う……まさか、そんなこと言い出さないよな?

「ルナ、俺はあれも食いたい」

 言った……。


「待ってくださいルシファーさん……じゃなかった、ルシファー。あなたパフェチャレンジもするんでしょ? 一緒にスパゲッティチャレンジもする気なの?」

「マジで? いやいやいや、お兄さん、それは幾らなんでも……」

 止める二人を無視して、ルシファーはウェイターを呼んだ。

「スパゲッティチャレンジも一緒にだ」

「……かしこまりました」

 ウェイターは、引きつった半笑いで注文を取って去った。



 先に頼んだ豪快パフェが来た。高さ70センチくらいだろうか。一番上の直径が20センチくらいあるような気がする……。花瓶?

「おお、これは、素晴らしい!!」

 ルシファーは拍手喝采だ。

 上から、ウエハース、アイスクリーム3種の横にプリンが乗せられており、その上に絞り出されたこれでもかというホイップクリーム。周りには様々なフルーツが「こんにちは」と顔を出す。それが終わるとみっちり絞り込まれたソフトクリーム、そのあいだに箸休め(?)のコーンフレーク、そしてソフトクリーム。その下はイチゴとバナナを練り込んだムース。最後は口の中をサッパリさせるためのソーダジュレ。

 瑠奈は、見ただけで熱が出そうになった。


 しかし、悪魔は、最近覚えたホイップクリームとプリンを嬉しそうに頬張る。

「美味いが、佳子のプリンには敵わんな」

 とか言いながら。

「おお、これは冷たくて甘いな。味も一つ一つ違うのか!」

 アイスの段を軽々と越え、

「うーむ。地上のフルーツはちょっと味が薄いな」

 と、天上のフルーツと味比べをし、

「おお、この冷たいクリームは美味いな。俺は好きだぞ。このカリカリしたやつと一緒に食うと尚美味い」

 下段のソフトクリームまで行って、スプーンが止まった。流石の悪魔もギブアップか? すると、ルシファーがボソッと言う。

「スプーンが短くて届かない」

 ウェイターが慌てて長いスプーンを持って飛んできた。多分、この層まで行く客が少なくて、最初からはつけていなかったのだろう。


 そこからルシファーは、ムースもソーダジュレも食べきり、満足そうに口を拭いた。

「美味かった。なあ、アヤカ」

 綾香は、ソフトクリームの上の部分で気持ち悪くなったようで、スプーンが止まっていた。



「あ……あの……ホントにスパゲッティチャレンジもされるんでしょうか?」

 器を下げに来たウェイターが、空になった器を見て驚きながら言う。

「うむ。スパゲッティは、一度食べてみたいと思っていた」

 ルシファーは、今俺は腹が減っているとでも言いたそうな表情で言った。

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