第4話

 土曜日。学校は休みだ。

 幸い(と言っていいものか)、瑠奈は部活動はやっていないので、家でルシファーを見張っていることはできる。が……。


「ルシファーさん、服を買いに行きましょう」

「服? 着ているが?」

「それじゃ目立ちすぎです。ずっと同じ格好だし、怪しまれます。もうちょっと普通の服を買いに行きましょう」


 他の女子に見つかって、事故を起こされないように、店の手前まで本に挟んで出かける。トートバッグはぎっしりだ。

「『青い春は彼と彼女のものだから』の5巻から12巻まで入れといてくれ」

 いつの間にか瑠奈の漫画を読んでいる悪魔。5巻から12巻って8冊……重いですけど。


 店の裏で、ルシファーを本から出した。8巻の途中だったらしく、読みながら出てきた。とりあげて、トートバッグに戻す。

「いいとこだったのに……」

「後でゆっくり読んでください。服買いに行きますよ」

「よし、行こう」

「あー、ルシファーさん、翼、翼!!」

 翼を隠しても、シュッとした黒尽くめのスーツを着た超絶美形の男。さっさと何点か見繕って帰ろう。


「いらっしゃいませ」

「あ、あの……、彼に似合う服を何点かコーディネートして下さい」

「………………」

「あの……」

「あっ、あっ、そ、そうですか、コーディネートでございますね」

 売り場のお姉さんが、悪魔の美形っぷりにヤラれてしまった。まあ、仕方がない。翼は隠せても、美形は隠せないのだから……。


「こちらなどいかがでしょうか?」

 いや、スーツは求めていない。

「もっとカジュアルなのでいいんです」

 店員さんはバタバタと一生懸命走る。

「こ、これくらいでいかがでしょう?」

「すみません、じゃ、これとこれのセットと、あとこのセーターを」

「お会計45,000円になります」

 くっ……貯金の半分近くが無くなった。

「ありがとうございました〜〜、またお越しください〜〜!!」

 またお越しくださいは、本音だな。

 そう思いながら、店を後にし、誰もいない所でまたルシファーを本の間に挟んだ。



 帰り道、悪魔が呼ぶ。

「ルナ、ルナ、いい匂いがする」

 確かにいい匂いだ。しかしこれは……

「ここは高いから入れません。帰りますよ」

 鰻屋の前だった。

 それにしても、こいつは食欲旺盛だな。


 家に帰る。

「佳子、今日のおやつは何だ?」

 帰るなり台所に行く悪魔。

「あらあら、気が早いのね。もうちょっと待ってね。クレープでも焼きましょうね」

「もう! 先に2階です。服、着てみますよ」

「……わかった。そうしよう」

 ちょっとガッカリしているルシファーを引っ張って、部屋に連れて行った。


「はい、そのスーツ脱いでください」

「うむ」

 ルシファーは、スーツを脱ぐ。

「ぬぁああ!! ……ちょ、ちょい待ち!」

 下は全裸。なんかこういう絵画とか彫刻とか見たことある気もするけど、動いている全裸は恥ずかしい。見てる方が。

「は、早くそのセーターとジーンズを!」

 悪魔の裸体から目を逸らしながら、言った。

「着たぞ」

 ルシファーを見ると、普通のカッコ良すぎる青年と化していた。翼を隠すと、本当に、ただの超絶美形の男にしか見えない。


「おやつができたわよ〜」

 との声に、自然に反応して、悪魔はそのままの格好で下におりていった。

「あらぁ。伊達さん、その格好良く似合ってるわぁ〜。達夫さんの若い時みたい〜」

 母よ、それはない。

「佳子、このふわふわした白いのは何だ?」

「あ、それはね、生クリーム。ちょっと沢山入れすぎちゃった」

「甘くて旨い。口の中でとろけるな。ん〜、これはいい。天に昇りそうだ」

「だから、落とされますって」

 こいつは、どれだけ天に召されたいのだろうと思う。


 

 さて、明日は日曜日。

 どうやって、この休日を乗り越えるか、瑠奈は頭を悩ませていた。


 ピロ〜ン

 スマホが鳴る。

 綾香あやかからのメッセージだ。


「明日、『豪快パフェチャレンジ』行くよね?」

 あ……忘れていた。そんな約束もしたよな。

「ご、豪快パフェは無理っぽいからやめようって話じゃなかった?」

「あ〜、あたしならいけそうなんだけど。『豪快スパゲッティチャレンジ』よりは食べられそうじゃん?」

「あ〜、そうか……」

「どした? なんか他に用事?」

「いや、あの……し、親戚のお兄ちゃん来ててさ……」

「なんだ〜、そんなこと? 連れてくればいいじゃん」

「あ、それがその……」

「じゃ、白石ビルのオブジェ前集合で!」


 ウサギの可愛いスタンプが押され、それでメッセージは終わってしまった。


 えーー? 友達に紹介するの? この親戚のお兄ちゃん。

 瑠奈の漫画にハマりまくって、たまにウルウルしているルシファーを見ながら、これは困ったことになったぞと思った。

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