第3話

 なんとか4時間目までを終え、お弁当を食べようとすると、悪魔の囁き。鞄の中から。

「いい匂いがする」

「昼食の時間ですから」

「俺の分はないのか?」

 そういえば、ルシファーの分までは作ってもらっていない。っていうか、悪魔って1日3食きちんと摂るものなの?

「出てもいいか?」

「ダメです」

「俺の分は……」

「わかりましたよ、購買いってきますよ」

「コウバイ?」

「大人しくしててください」


 ルシファーを挟んだ本と、自分の弁当を持つと、購買部へと向かった。

「悪魔って何食べるんだろ?」

 瑠奈はそう思ったが、昨日も普通に、ご飯と味噌汁と唐揚げとポテトサラダを食べていた。今朝は、トーストにたっぷりジャムを塗って「素晴らしい色だ!」と絶賛しながら食べていたし。多分何でも食べるんだろうな。あの感じだと赤いものが好きなのかもしれない。

 購買部で、ジャムパンとトマトジュースを手にとって考える。

「いや、トマトジュースって……ドラキュラじゃないしな……」

 実際、ドラキュラがトマトジュースを好んで飲んでいるかどうかは知らないが、この悪魔はジャムは好きなようなので、ジャムパンとおにぎり2個、お茶を買った。

 

 人気ひとけのない北階段の踊り場で、階段に腰掛け、持っていた本を開く。

「ルシファーさん、出てきていいですよ」

 ファサッと軽い羽根の音がして、元の大きさのルシファーが出てきた。「うーん」と翼を伸ばす。

「やはり本の間は狭いな」

「我慢してください。はい、これ、食べてくださいね」

 瑠奈は、ルシファーに買ってきたものを渡した。

「ジャムパンとおにぎりとお茶です」

「お前のは?」

「私は母の手作り弁当ですよ」

佳子よしこが作ったのか?」

「『佳子さん』が作ったんです」

 人の母親を呼び捨てにすんな。

「俺が、佳子の作ったものを食おう」

 どうやら、母の味が好きになってしまったらしい。仕方なく、瑠奈は、母の手作り弁当を彼に渡し、買ってきたおにぎりを頬張った。

「この美しい黄色いものは何だ?」

「卵焼きです」

「これは旨い。天にも昇る味だ」

「また落とされますよ」

 一通り絶賛して全部平らげた彼は、最後に瑠奈が食べているジャムパンを覗き込み、

「その色は何度見ても美しい。ルナ、それを俺に」

「イヤです」

「ふん。それでは、これから俺は本の間には入らん」

「……わかりましたよ」

 仕方なく、ジャムパンをルシファーに渡した。



 悪魔は本が好きらしい。帰るまでに、鞄の中の教科書は全て読んでしまったと言っていた。


「ただいま〜」

 家に帰ると、カラメルの匂いがした。

「いい匂いだ。これは?」

 ルシファーは、また先に台所に行っていた。

「あら、伊達さん、おかえりなさい。瑠奈と一緒に帰ってきたのね」

「一緒に学校に行っ……」

「そ、そこでね、一緒になったの」

 瑠奈は、ルシファーを制する。

「だ、伊達さん、今日はプリンみたいよ」

「ほう、プリン。よくわからんが、美味しそうだ。」

「ほら、二人とも、手を洗って、着替えてきてね」


 着替え……着替えなあ……。

 ルシファーにも、格好をさせることはできないだろうか。流石に黒尽くめのスーツに羽根でできたコートでずっと居させるのもどうかと思う。

「ルシファーさん、その翼って隠すことできます?」

「これか? できなくもないが……」

「が?」

「一定の時間を超えると出てくるな」

「……ビョ〜ンと?」

「……バサッと」

「その時は、すぐにコートにできます?」

「それは問題ない」

 そうか。それならいけるかもしれない。

 

 そう思っていると、階下から母の声。

「おやつ、準備できたわよ〜」

「おやつだ。いかねばなるまい」

 ルシファーが立ち上がった。


「これがプリンか。なるほどプルプルしている」

 プリンのプルプル感をスプーンで楽しむ悪魔。

 一口食べて、至福の表情になった。

「佳子、結婚してくれ」

 母にプロポーズする悪魔。

「あらまあ、お上手ねえ。でも、私には達夫たつおさんっていう、旦那さんがいましてね」

 楽しそうに言う母。悄気しょげる悪魔。

「毎日、佳子のプリンが食べたいのに」

 子供か。


「あ、そうそう、お母さん、今度から伊達さんのお弁当もお願いしていい?」

瑠奈は、母に、ルシファーの分の弁当もお願いした。

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