落ちてきたのは食欲旺盛な超絶美形
緋雪
第1話
雪がちらつく寒い日の帰り道。
灰色の空から、それは、ひらひらと舞い落ちてきた。
「羽根?」
拾ってみると、黒く長い羽根。光沢があり、カラスのにも似ているけれど、羽根ってこんなに軽かったかしら?
空を見上げる。カラスなんてどこにもいない。それに、これってカラスの羽根より長いような気がする。
不思議な物体に首を傾げていると、背後でバサッ、ドスンと大きな音がした。
驚いて振り返る。真っ黒い巨大な鳥がいた。鳥? のようなものが。
「うっ……場所が違う?」
その鳥らしきものが呟く。
「えっ?」
「あ……」
鳥のようなものが気づいてこっちを向く。
「ええっ?!」
それが人間だったことに、瑠奈は初めて気が付いた。
それは、シュウッと立ち上がった。黒いスーツを着て、黒い羽のようなコートを羽織った男だった。
「……人間……だった。びっくりした〜」
何も見なかったことにして、瑠奈は立ち去ろうとした。
「おい、お前」
呼び止められて、ギクッとして振り返る。
「今、見てただろう?」
「……あなたが転んでたところですか?」
恐る恐る瑠奈が答える。
「落ちてきたところだ」
黒尽くめの男は少し怒ったように言う。
「落ちてきた? どこから?」
心の声が、そのまんま出てしまった。
「……いや、いいんだ。忘れてくれ」
男は立ち去ろうとする。
瑠奈は、思わず彼の服を引っ張った。
パサッ
軽い音がして、コートの羽根が一本抜ける。
「おい」
「あっ、すみません。引き止めようとしただけなんですけど……」
彼は瑠奈を真っ直ぐ見る。
「なんだ?」
恐ろしく美形。こんなの、この世の産物ではあるまいという美しさ。これがそのへんを歩いてたら、女子は絶対二度見する。三度見、四度見する。そのうち2割くらい事故るかもしれない。犯罪級だ。
「あっ……ええと。あなたはどちらから?」
瑠奈は、馬鹿みたいな質問をしてしまった。“Where are you from ? ” 外国人への質問か? 流暢な日本語話してるし、日本人なのだろうとは思うのだが……。
「お前には関係ないだろう?」
確かに。でも、そこに落ちていた犯罪級の美形には興味しかない。
「……落とされたんですか? 誰かに?」
「……何故それを?」
「落とされたんですね?」
「落ちてきただけだろう」
「どちらから?」
瑠奈は辺りを見渡す。落ちてこれそうな建物はない。公園近くの歩道だし。いや、そもそも、どこか高い建物から落ちたら、そんな平気な感じで立ってられないと思うが……。
「あっちだ」
男は天を指さした。瑠奈は、美形だからという理由で関わるのはやめた方がよかったような気がした。
「ところで、聞きたいんだが」
男が瑠奈に尋ねる。
「田町6丁目の公園前バス停って、ここじゃないのか?」
そう、ここはバス停前。でも乗り降りする人は殆どいない。
「あー、ここですけど、『田町6丁目公園前坂の上』っていうバス停が、すぐそこにも」
「なに?」
「バス会社が2つあって、たまたまバス停が近くにあるんですよ。もっとも、どっちも滅多に乗り降りする人みかけませんけど。」
「……そういうことか……」
「バスに乗るはずだったんですか?」
「いや、間違えたんだな。降りる場所を」
「バスから降りてきたんでしたっけ……?」
「いや、落ちてきたのは上からだ」
「物凄く意味不明です。なんか関わらないほうがいい気がしてきました。帰っていいですか?」
瑠奈は正直に言ってみた。
「いや、案内してもらいたいんだが」
「どこに?」
「そのバス停に……いや……もう閉じてしまったか……」
「閉じる?」
「道をな、間違えたようで、帰れなくなった。ってことだな」
小学生か。迷子になった奴が偉そうに言うな。
しかし、このまま放置もできない気がする。どうすればいい? 瑠奈は考えた。
「とりあえず、交番行きます?」
「…………」
「行きたいところの住所が分かれば……」
「地獄の3丁目あたりかな」
「……」
地獄に住んでる男……? もしや……
「すみません、お名前を聞いてもいいでしょうか?」
「Luciferだ」
「ルシファーさん」
なに! ルシファーだと? 堕天使じゃん。悪魔じゃん、こいつ。いや、しかし、本物? なんでとっくに堕天してるはずの人が、天から落ちてくるの?
瑠奈の頭の中は「?」でいっぱいだ。
「ちょっとミカエルの様子を見に、こっそり天界に行ったら、見つかって、落とされた」
彼は、瑠奈の頭の中を読んだかのように言う。
「で、落ちるルートを間違えた? と?」
「そのようだな」
ルシファーは、コートの羽を撫で、埃を落としながら言った。
「堕天使」「悪魔」。
こんなものと関わったらロクなことがないような気がする。
でも、超絶美形。流石、この世のものではない。
これをそのへんに放置していてはマズイ気もして、瑠奈は思わず提案してしまった。
「とりあえず、うちに来ませんか?」
「いいのか?」
「とりあえず、帰り道がわかるまで、ですけど」
「すまんな。助かる。行こう」
なんで世話になる方が偉そうなのよ。そう思いながら、瑠奈はルシファーを自宅に案内した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます