第29話:後日譚3(家族のこれから)
妻との再構築の上でかなり重要なことの一つ、夜の営みは、これまで月に数回だったのが、週に2〜3回に増えたし、妻も積極的だ。
当初、とても無理と思っていたのだけど、徐々に増えているので良い傾向かもしれない。花音に弟か妹の話ができる日もそう遠くないだろう。
妻に「どれが好きか」と聞くと、意外にも「後にパパと話したりするのが好き」とのこと。「頭を撫でられるとお腹の下の方がきゅーーーってなる」と。これは俺では想像できない項目なのだけど、続けていこうと思う。意外にもピロートークの時間が好きらしい。
事後の会話は俺のコンプレックスをえぐることもあるし、消し去ることもある。例えば、こんな感じ。
「俺は別にかっこよくないし、太ってるけど、旦那にしてよかったの?」
「それは気にならないです。むしろ、嬉しい……かも」
ベッドでは俺が左側に寝て、右側に妻が寝る。妻はほぼこっちを向いていて俺の腹に抱きついている。結婚当初は腹が出ているのを無言で責めているのかと思っていたけど、感触とか大きさとかが好きなのだそうだ。
「お父さんがおっきい人だったから、おっきい人が好き。多分、ファザコンだと思う。……でも、お父さんとこういうことをしたいとは思わないから正常だと思います。こういうことをしたいのはパパだけ」
ヤバい。やっぱりこの生き物はかわいい。俺と比べたら背も低いし身体も小さい。娘とは一味違った庇護欲が溢れてくる。
「高校のとき、先輩のサッカー部キャプテンから告白されてたけど、やっぱりそういうときは嬉しかった?」
「うーん……困ってた。誰にも知られたくないと思ってた」
意外な答えだった。回答次第では、俺のトラウマに上書きする様な問いだけど、俺は逃げずに聞いたんだ。
「なんで?」
「紗弓ちゃんが好きな人だったから、すごく気まずくて……」
紗弓ちゃんとは高校の3年のときの同級生の名前。たしか、「岸田紗弓」じゃなかったかな? 妻と特に仲が良かった3人組の1人。
たしかに、なにもしてないのに、好きな相手を取ったみたいになるのは具合が悪かっただろう。
「それでどうしたの?」
「告白はOKすることはなくて……、断ると紗弓ちゃんの好きな人を私が断るのは気まずくて……告白されたことも闇った感じに……」
なんとも歯切れは悪そうだった。学校で人気のイケメンが告白されたなら、さぞ誇らしいだろうと思っていた。人気者には人気者の悩みがあるみたいだった。それでも、仲良し3人組の関係にヒビを入れずに、なんとかしているのだからすごい。
「同じような話だけど、先輩の剣道部の主将は……?」
「……?」
キョトンとした表情。どういう反応?
「なに?」
「うんとーーー……、覚えてない……かもです」
「いやいや、結構話題になってたし! 学校内では大スクープだったよ!」
聞けば、本当に覚えてないのだとか。俺だったら、どんな人からでも告白されたら忘れないだろう。実際、高校時代に俺に告白してくれるような人は一人もいなかったし。
ただ、嫁の場合はその数が多かった。だから、よほど特徴がないと覚えてないのだとか。
「じゃあ、クラスメイトとかも告白してきた?」
「うーん……、うん」
まあ、そこは当然か。
「誰?」
「野田くん……」
クラスの騒がしいヤツ! たしか、自動車好きが高じて自動車修理工場をやり始めたとか言ってたっけ……。
「他には?」
「佐藤くん……」
なかなかかっこいいヤツだったはず。大学院まで行ったけど、就職できなくてコンビニでバイトしてるのを見たことがあるヤツ。
「まだいる?」
「伊藤くん」
卒業して自衛隊に行ったヤツ! 本当に色々告白されてる。
「クラスでは何人くらいに告白されたの?」
「3年間? それとも3年のときだけ?」
そこで答えが変わるんだ……。さすがたくさん告白されてる。
「じゃあ、3年のときだけ」
「うーん……」
指をおって数える妻。そんなに!?
「7人」
「多いなぁ! クラスが33人だったから、半分が男子として……16人? そのうち7人!? 人気すぎない!?」
「えーと……。1人は女の子」
女子もいたーーーっ!
「ちなみにそれは……」
「秘密……いえ、言います。野尻さん」
隠し事をしないって約束したからか、一旦本人の名誉のために秘密にしようとしたけど、教えてくれた。そこまで気を使わなくていいのに……。
「たしかクラス委員! 次の同窓会で会ったら見方が変わりそう……」
「あーん、絶対に言わないでねーーー」
事後に二人とも真っ裸でこんな話をするのは楽しい。
「あと、同窓会はもうしばらくいいかなぁ……と」
「なんで?」
そういえば、俺を探しているときに同窓会のグループLINEを使っていたな。それが恥しいとか? さすがに自分が不倫していたことまでは書き込んでなかったし、問題ないのでは……。
「前回行ったときに何人かから連絡先聞かれたし……その、お誘いの意味で……」
「なんだとーーー」
誰だそいつは! 絶対に許さん!
「前回の同窓会のときは、付き合ってたけど、まだ結婚してなくて、みんなに言えなかったけど……」
「そうか、俺が言わないでって頼んだんだ。恥ずかしかったから……。次はちゃんと言うよ。俺の嫁だよって!」
「お願いします。じゃあ、同窓会があったら行きたいです♪」
また俺の太い腹に妻が抱きついた。多分、俺達は再構築して復縁できる。悲しいことも辛いことも経験した。もう、二度と同じ失敗をしないように妻を見て生きていうと思う。
○●○
後日、日曜日。家のリビングで妻の作ってくれた昼ごはんを娘と一緒に食べていた。
「パパ、封筒が届いたよ。速達だって」
妻が大きめの分厚い封筒を玄関で郵便局員から受け取った。
「ありがと」
受け取ると俺はすぐに開封。中からはA4サイズほどの紙が大量に束ねられていた。
「なにが来たの?」
テーブルの席について自分の分の食事をテーブルに置く妻。ちょうど昼ごはんの準備をしていたときに郵便局がきたのだ。
「ゲラだった。出版社からのー」
そう、俺達のドロドロとした不倫からの離婚劇はWEB小説に書いたものが反響を呼び、手直しをして本になることになった。「ゲラ」は本の試し刷りのようなもの。まだ本の形にもなってないけど、もうすぐだ。
俺達夫婦の恥しい話を全国の人に読んでもらうのは抵抗はあるが、自らの戒めにしようとも思っているんだ。
〈了〉
□
ここまでお読みくださりありがとうございました。
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