第17話:予想外のワクワク

 俺は広島から福岡に戻った。まずは、広島に行った理由は「消印」だ。郵便物を出すときは担当した地域の郵便局の印鑑が押される。


 福岡から郵便物を送ったら「福岡東郵便局」とか福岡だと分かる情報になってしまう。単に「福岡」じゃなくて、そのポストを担当する地域の郵便局の消印が付くから、かなり地域が絞られる。


 それを回避するには簡単かつ、絶対的な方法がある。違う地域に行くんだ。


 消印のためだけに、どこかから広島に行くとは思わない。しかも、新幹線で移動するような距離を。


 俺の「爆弾」がそれぞれに到着するまでの数日、色々想像してワクワクする。ちなみに、爆弾は4発だ。4通ってこと。


 爆発の日が待ち遠しい。


 ワクワクはそれだけじゃなかった。実は、そろそろスマホを解約しようと思っていた。毎日のように電話はなり続けている。


 LINEのメッセージも妻からだけじゃなく、両親からも届いていて未読がたまりまくってる。


 うるさいし、これでは使い物にならないから、逃亡を完成させるためにも解約して、これからのために新しいのを契約しようと思っていた。


 これまで躊躇していたのは、身分証明書がないこともあるけど。これに関しては、良い方法はなかなか思いついてない。


 話は戻るが、予定外のワクワクは高校の時のグループLINEが動き始めた。妻が情報提供を依頼してクラスのほとんどが参加しているLINEに書き込みをしたみたいだ。


 俺は背中にゾワッと寒気が走った。ワクワクというか、ゾクゾクというか。ここなら誰が見たか分からない。「既読12」とかしか表示されないからだ。


 俺が書き込みさえしなければ、俺が見ていることもわからないかも。


 ちなみに、このグループLINEは高校の時に作ったんじゃなくて、何年か前に同窓会をしたときのもの。


 妻とはもう付き合っていたけど、結婚はまだの頃。久々に集まったんだけど、当時の同じクラスのヤツはほとんど来てた。そのときに、また同窓会やろうぜなんて言って作ったのがこのグループ。まあ、それから1回もやってないけど。


 グループLINEに妻が書き込んだ。


『風間くんのことをなにか知ってる人は情報お願いします!』


 妻は外では俺のことを「風間くん」って呼んでるのか? 普段は「パパ」って呼ばれてるのに。それとも高校時代のメンバーだからそう言ってるのか。


 あ、「風間」は俺の名字ね。今はまだ妻も「風間」なんだけど。


『なになに? どうしたの?』


 同級生の1人が反応した。俺達が結婚したことも知らないヤツも少なくない。同窓会から数年経って、突然クラスのアイドルの嫁がモブ代表チー牛の俺のことを聞いてたら驚くヤツもいるだろう。


 恥ずかしさもあるし、なんか色々な感情で腕とか背中とか鳥肌がわっと立ってる。


 そこから妻が俺と結婚していることを説明してた。連投してるから「既読」の数が増えていってる。俺としては都合がいい。俺がこのグループを見ていることが分かりにくい。


 さすがに不倫したことまでは言ってない。そりゃそうだ。ワンチャン俺が不倫に気づいてない可能性もある。


『出張に出たまま帰って来なかったの!』

『心当たりはないの?』

『分からない』


 グループLINEのやり取りを見たら、嫁が焦ってる様子が手に取るように分かる。


 クラスメイトから色々訊かれてる。嫁はとにかく答えてる。嫁と子を放置していなくなった俺はすごく悪いヤツになるだろう。


 ただ、俺はもうそこにはいない。なんなら別人だ。何を言われても他人ごとだと思うことにする。


 その間も嫁から俺宛に「どこにいるの?」とか、「生きてる!?」とか来てるみたい。開かないから1行目しかみえないけど。「既読」を付けると俺はそのアカウントを確認していることが分かってしまう。嫁と両親、義両親からのメッセージには「既読」を付けるわけにはいかないのだ。


 クラスのグループLINEは情報を得るのにいい方法が手に入ったと思う。


 そうしてる間に高校のときの友達からもメッセージが付き始めた。これも開けない。「俺だけには連絡よこせ」みたいなヤツもいる。悪いが俺は誰も信用できない。


 俺が信用してるのは……家族……いや、誰もいないんだった。

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