第33話 ミガル修道院。そびえ立つ影

 魔動車を降り、ミガル修道院の正門をくぐる時、エイラスはカタファを連れ立ってガヨに近づいた。

「喋るのは俺とカタファに任せてください」

「いや、それは」

 ガヨの続く言葉をカタファが遮った。

「そうそう。騎士団でも修道院でも胡散臭い奴らはいるだろ? そういうみみっちい交渉事は俺らに任せろって」

 ガヨの表情は硬かった。分隊長としての責任と誇りが首を縦に振らせない。

 カタファは、強く揺さぶればガヨは引くだろうと考えて口を開いたが、先に発言したのはエイラスだった。

「ガヨには分隊長として状況をよく見ていてほしいんです。ガヨが一番、合理的な行動が取れますし、様々な法令を覚えていますから、いざという時にその頭脳を生かしてください。怪しい言動や違反を見逃さずにいてほしいんです。会話の中心に立つと、それも難しいでしょうから」

 エイラスがにこりと微笑むと、ガヨはやっと頷いた。

「分かった」

 ガヨの返事を聞きながら、やはり交渉事はエイラスの方が勝っているとカタファは思った。カタファは人の懐に入り込むタイプだったが、英ラスのような有無を言わさない強さはない。彼の美しい顔と微笑み、そして気品は思わず他人を頷かせてしまう魅力があった。

「そうだぞ。ガヨ分隊の初期メンを頼ってくれよな?」

 カタファの言葉に、ガヨとエイラスが笑った。傭兵の入団制度ができて以来、久々の三人だけの会話だった。


 修道院の大きな扉の叩き金を大きく揺らす。ゆっくり3回叩き、しばし待つと扉が開いた。エイラスが一歩踏み出し、顔を覗かせた老いた修道士に声をかけた。

「初めまして。私たちは首都第三……」

 言葉の途中で修道士が大きく扉を開き、エイラスの顔を覗き込んだ。

「ヒューレス王? なぜこのようなところに」

 この老いた修道士はミガル修道院の司祭のようだ。各地域の司祭は年に数回、王に謁見する機会がある。ヒューラ王国の重要な商業拠点であるミガルの司祭であれば、他の地方の司祭よりも顔を合わす機会も多いだろう。


 エイラスの顔は国王ーーヒューレス王に似ている。それはヒューレス王がエイラスを寵愛する理由の一つでもあり、エイラスが周囲から王の情夫だと知れ渡る理由でもあった。

 エイラスの横からバンダナの飾りを揺らしながら、カタファが声をかける。

「いえいえ、俺たちは首都第三騎士団の者です。ほら……」

 驚く司祭の肩を人差し指で小さく叩き、口に手を添えた。

「神秘の。あの奥にいる大きな男が件の彼ですよ」

 カタファがエンバーを指差した。

「ああ、あの方が……!」

 司祭の興味はエンバーに移ったようで、よたよたと小さな歩みを早くしてエンバーに近づいた。

「端麗王に似ているというのも、考え物だな」

「いまさらですよ」

 ガヨの控えめな慰めに、エイラスは自嘲気味に笑った。

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