第27話 おいていかれた男たちと食えない男

 魚料理がところ狭しと並べられている食堂で、ジブはミガル騎士団員たちに囲まれていた。もっぱらの話題は、ジブが入団試験時に投げた槍の話だった。

「崖下から騎士団に向かって投げたんだって?」

「肩も腕も太ぇもんなぁ。アンタ」

 関節の太い指がわしわしとジブの腕を掴む。ジブはちぎったパンを落としそうになりながら、ミガル騎士団員に返事をした。

「いえいえ。あのときは無我夢中で」

 苦笑い交じりで適当に返しつつ、ジブはパンをスープに浸して口に入れた。ハーブを練り込んだ、少し硬くてすっぱいパンだった。港街という土地柄か、様々な体格と髪色の集まる食堂で皆が競い合うように大声で話している。

 ジブがもう一口、パンを頬張ると食堂がにわかに静かになった。ジブが顔を上げると。見慣れた憎たらしい白金の髪が遠くで輝いている。あんなに騒がしかった食堂は、今や、板張りの床を軽やかに歩くエイラスのヒール音しかしていなかった。

「おはようございます。ジブ。何を食べてるんです?」

 エイラスが近づくと周囲が一斉に身を寄せ、一人分のスペースが自然と開けた。

「シンプルな魚料理、いいですね。パンは……独特な色味です。おいしいですか?」

「食ってみりゃわかるよ」

 ジブはフォークでサラダを山盛りつついて口に入れた。無垢なふりをしたにこやかな表情がジブを苛立たせる。

「それもそうですね」

 ジブの嫌みを意に返さず、エイラスはカウンターに向かった。その背中を団員たちがこぞって見送る姿も、また腹立たしかった。


 昨晩、ペンダントを失くしたトニーが戻ってきたのは夜中だった。隣の部屋で息を殺しながら待っていたジブは、ため息をつきながらゆっくりと扉が閉まる音を聞いていた。部屋の中をとぼとぼと歩く足音がかわいそうで、駆け付けて彼の顔を見たかったが止めた。

 トニーは慰められるのが嫌いだからだ。


 ーーエイラスは何をしていた? 

 昨晩、エイラスはペンダントを失くしたと走り出したトニーに対処したはずだ。俺をトニー以外見ていないと皮肉って返してまで。だが、それはいい。トニーしか見ていないのは事実だったから。しかし、トニーが落ち込んで帰ってきたことは許せなかった。


 ジブは少し冷めたスープをかき込んだ。視界に入らなくともエイラスが近づいてくるのは分かっている。彼が歩けばその周囲の視線と音を奪い、ヒールの音が嫌でも響くからだった。

「ここの皆さんはたくさん食べるんですね。こんなに盛られてしまいました」

 トレーにはサラダと魚料理が山盛りになっている。皿からはみ出た魚の尾がエイラスと手をつないでいた。

 ジブは焼き魚を口に入れる。困った顔で笑うエイラスを見ながら、ごりごりと骨ごと噛み砕いた。

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