ただの高校生だった俺が陰陽師になった件 〜成り行きでなった陰陽師だけど、人々の生活を守るために最強へ成り上がる〜

七楽丸井

一章:第一部 陰陽師試験編

第1話 【口裂け女】の噂


 今よりもはるか昔、日本には【陰陽師】と呼ばれる者たちがいた。彼らはとある存在と日夜戦っていた。それは当時、国中に溢れかえっていたこの世ならざるもの、あやかしと呼ばれる存在達だ。


 陰陽師は人の身でありながら、摩訶不思議な術を使い、彼らを祓う仕事をしていたのだった。


 そして、今からそんな時代とは全く関係のなかった、現代のとある男子高校生の話である。


 ***

 

「私、キレイ?」


 顔の下半分を隠すようにマスクをつけている女が俺にそう聞いた。


 ────はたから見ればただの逆ナンのように見えるかもしれないが、それは違う。


「ネェ、私、キレイ?」


 女は何度も俺に問いかけてくる。それも、俺の首に”大型のハサミ”を添えて、だ。


「あ、あぁ、キレイだ」


 思ってもいないことを口にする俺。こうでも言わなければ確実に殺されていただろう。


 ────それは何故かって?


「アハハッ。なら、?」


 女はそう言いながらマスクを取る。顕になった女の口が耳元まで大きく裂けていた。


 ────だって、こいつが【口裂け女】だからだ。


 ***


 時はその日の学校の休み時間まで遡る。

 

 俺、神崎かんざき紅城こうしょう古河こが涼介りょうすけと奇妙な話をしていた。


「なぁ紅城。昨日この街で”あれ”が出たみたいだぞ?」


「ん?”あれ”って何だ?」


 最近は変質者が出たという話もないし、学校の近くに森はあるが、危険な野生動物がいるわけでもない。果たして一体何のことを指しているのだろうか。


「お前、そんなのも知らないのか?出たんだよ、【口裂け女】が」


 「【口裂け女」か。あぁ、都市伝説で有名なやつか」


 まぁ、そんなものは親が子どものしつけに使うために作られたよくある空想の話に決まっている。


「逆に聞くが、そんな噂を信じてるのか?俺は神社の家系だけど、一度もそんなのは見たことがないぞ?」


 俺の父と母は神社の神職である。両親は祈祷とか曰く付きの物とかをお焚き上げしたり、たまーに悪霊に取り憑かれたと言って来た人をお祓いしているが、俺は信じていない。


 霊とか非科学的なものとか、そんなのはただの思いこみだ。


 話を信じていない俺をよそに、涼介はまだ話を続けた。


「だから、噂とかじゃないんだよ。隣のクラスの三島が遭遇して、病院送りになったんだよ」

 

 それを聞いても正直信じてはいなかったが、一応クラスメイトに確認すると、どうやら本当に今日学校に来ておらず、病院にいるそうだ。


 少し興味の出てきた俺は、涼介からさらに詳しい話を聞くことにした。 


 【口裂け女】────それは涼介曰く、昨日学校から三島が一人で帰ったところまでは目撃者がおり、その後に襲われたとのこと。


 どうしてそれが【口裂け女】につながったのかと言うと、救急車を呼んだ人が見た傷が普通じゃありえないものだったらしい。包丁のようなもので刺された傷は何個もあったが、頬が耳の直ぐ近くまで切り裂かれていたそうだ。


 それを見た人が、【口裂け女】の都市伝説と関連付けたため、そんな噂が流れたのだという。


 それと真偽は定かではないが、救急車で運ばれるまで「口裂け女」と何度もつぶやいていたらしく、更に口裂け女の信憑性が増したのだという。


「な?ほんとに噂じゃないんだよ」


 確かに涼介の言ったことを素直に受け取れば、口裂け女が実在するように思えてくるが、話を聞く限り、やはり噂は噂だ。襲ってきた人が似た特徴で、それをつぶやいたとかそんな感じのやつだろう。


「信じる信じないは勝手だが、そんなに話していると夜眠れなくなるぞ?それに、もしかしたら今日はお前の番かもな?」


 俺が少しそう言って脅すと、涼介はすぐにこっちに近づいて俺の両肩に手をかける。


「怖いこと言うなってのォ!!」


「やめろ揺らすな揺らすな」


 しまった、怖がらせすぎた。抵抗虚しく、その後俺は全力で涼介に体を揺らされ続けたのだった。


 ***


 口裂け女の噂は午後になるとクラス中そこかしこで広まっていた。


 俺が適当にスマホをいじっていると、


「ねぇ、紅城。私一人で帰るの怖いから一緒に帰らない?」


 そう提案してきたのは、涼介と同じ、幼稚園からの四人組の一人、綾西あやにし結月ゆずきだった。


 大方、口裂け女の話を聞いて帰るのが怖くなったのだろう。


「ごめん、迷惑だった?」


 少し悲しそうな顔をしながら、こちらの顔色をうかがってくる結月。別に一緒に帰るくらい何も迷惑じゃない。まして、気の知れた相手のだから、頼みを断るはずもない。


「全然いいよ。一緒に帰────」


「なぁ、それだったら菜華も呼んで四人で一緒に帰ろうぜ!」


 俺が結月の提案を喜んで受けようとしたその瞬間、後ろから涼介が会話に割り込んできた.


「いや、結月から先に誘われたから、俺はそっちと────」


「え〜、いいじゃん。みんなで帰ったほうが安全だって〜」


 俺と涼介が揉めていると、結月は一瞬だけ迷った表情を見せた後、すぐさま口を開いた。


「……私は、みんなで帰ってもいいよ?」


「結月もいいって!な〜紅城?みんなで帰ろうぜ?」


「ま、そうするか」


 そんなこんなで、俺は残りの篠本しのもと菜華さいかを含めた四人で帰ることになった。この後、菜華を誘いに行った涼介。帰ってきた彼の頬はやけに赤く腫れていた気がする。なにかあったのだろうか……



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