カードを選んで転生ってどういうこと⁉

カナデ

第1話 カードで転生ってどういうこと⁉

「羽で、天使なんてなんで選択したんだ私ーーーーっ!もう、命令であちこちお使いに出るの、イヤーーーーーーーーーー!!」


 パタパタと背中の小さな羽で天界を飛びながら、見習い天使の中でもとりわけ小さい、十歳程の外見の天使が叫び声を上げた。

 もうその姿は風物詩のようになっており、すれ違う天使達には微笑ましい視線を送られる。


 もう、本当にどうしてこうなったのーーー!




『パンパカパーーーーーンッ!!おめでとうっ!君は今流行りの転生に選ばれました!さあさあさあ。ほら、このカードを選んで、選んでーーーっ!』

「は、はあ?」


 気づいたらお約束のような真っ白な空間にいた。そしてギリシャ神話のようなシーツを巻き付けたような服を纏った美形な少年、恐らく神、と呼ばれるだろう存在に、ぐりぐりと頬に手に持ったカードを押し付けられていた。


 え?えええっ?何、なんなの?これってラノベでいう転生っていうヤツってこと?あれ、それなら私、死んだの?ええっ、でも、これってどういう状況?それになんで目の前なの!近い、近いって!


 目の前には超アップに頬に押し付けられた白紙のカード、そして美形であろう少年神の金色に輝く瞳。

 この状況にすぐに適応できる人がいたら是非紹介して欲しい。


『ほらほらほらーーーー。考えてないで、さっさと引いて、引いて!引かないと他の人にするよーーー?』

「えっと、この中から一枚引けばいいんですか?」

『うん!はい、どーぞ好きなの一枚選んでーー!』


 訳が分からないが、訳の分からないままこの場からポイ捨てされてブラックアウトしそうな雰囲気に、とりあえず今は状況を考えるのを後にして少年神と向き合う。

 するとニッコリと満面の笑みを浮かべ、手にババ抜きのように広げたトランプのような真っ白いカードを目の前に差し出された。


 目の前の七枚のカードを、どれにしようかと悩みつつ、なんとなく真ん中の左隣のカードを選び手を掛けた。

 すると選んだカードが浮き上がり、空中で裏返って見えたのは【羽】という文字。


『はいはーーい、【羽】のカードだね!【羽】だと、鳥型の動物、魔物、魔獣、それに今回は大盤振る舞いで神獣も選択肢にいれちゃう!人型が良ければ鳥の獣人とかああ、ドラゴンとかドラゴニュートとかでもいいよ?悪魔とか選んでもいいけど、あまりお勧めはしないかなーー。さ、転生先の種族、何がいい?』


 はあ?なに、これ……。ええっと、もしかして、今選んだカードが私が転生する種族を司るカードだった、ってこと?なんか人以外からだったし、幅が広すぎる気がするんだけど……。


『さあ、さあ、さあ!何がいいーー?早く決めてね、決めないと次のカードを出せないじゃん。選べないなら、僕が適当に作った種族のカードを引いた方がいいーー?』


 ええっと、ちょっと、だから展開が早すぎるのよーーー!でも、今すぐ選ばないと、自分で選べないってことよね。またカードを引いてその種族になるって、ガチャと同じじゃない!ちょ、ちょっと待って。羽、羽よね。羽がついている種族なら何でもいいのならーーー。



「え、えええーーっと。で、出来たら人型がいいので、そ、そうですね。鳥の獣人がどういう外見か分からないので、悪魔がいるなら天使、とか選べたりしますか?」


 獣人ってラノベによるけど、まんま獣の姿の場合もあるし、さすがに手がない生活なんて想像出来ないから!天使なら羽があっても基本的に人型よね。


『えーーー、へーーー、ふーーん。まあ、いいよ。僕が選ばせてあげる、って言ったんだし。天使、天使、ねぇ。僕の下で働きたい、ってことだよねぇ。まあ、いいや。じゃあ次のカードは天使の階位だね。次は、これから選んでねーー』


 天使、と答えた時に少年神?の瞳がキラリと光ったような気がしたが、天使って種族じゃなくて、まんま神の使いなのーーっ!といういわば内心パニック状態な私は全く気付くことはなかった。


 少年神が思わせぶりに左手を上げてポーズをとり、シュッっと恰好良く手を振ると、今度は私の目の前の空中に十枚の白いカードが浮かぶ。


 さっきはババ抜きだったのに!と思いつつ目を白黒していると、またさあさあさあ!と迫られた。


「ええっと、階位、階位って、天使の階位?……と、とりあえず選ばないと、なんですね?」


 ミカエルとかガブリエルとかウリエルとか、なんかそんな感じで天使にも種類がいるの?そっちは私はあんまり詳しくないんだけど……。


『そうそう。はい、さっさと選んでねーーー。次のカードの準備があるからねー』


 ううう。ガチャ運、私良かったためしはないんだけど……。でも、どれを選べばいいかなんて分からないんだし、ええい、ままよっ!


「こ、これ、でっ!お、お願いしますっ!」


 今度は右から三枚目のカードを指さしてやけくそな気分で叫ぶと、そのカードがまた裏返り、書かれていたのは【10】という数字だった。



『ふーーーーん。10、10、ね。君って欲深いのか、そうじゃないのか分からないねーーー。でも、そっかーーー、10かーーー。10だと残念だけど次のカード、いらないかなー。なんだーー、もう終わりかー。つまらないから、君、どうせ見習い天使だし、外見は十歳から始めなね!ハイハイハイ、じゃあ、転生、行ってみようかーー!』


 え、もうカードは選ばなくていいってこと?でも、これで終わり?ええ、私、これからどうすれば……。


 と、そこまで考えた時、思考が真っ白になり、意識がブツリと途切れたのだった。そしてーーー。




「気づいた時には小さくなってて、なんか飛んでたし!そしてすぐに【命令】であちこちお使いで飛び回ることになったし!!なんなのよ、もうーーーーーっ!」


 そう、次に気づいた時は天界、光り輝く一面の雲が広がっている場所で、ふわふわと浮いていたのだ。

 そして自分の状況や外見などを調べる間もなく、上から飛んで来た立派な大きな羽が六枚も背中にある天使に【命令】された。


 その【命令】をされた時、頭の中にこの天界の知識や天使の役目など、膨大な知識やその【命令】を果たす為にすることを強制的に脳裏に焼き付けられたのだ。


 そのまま訳が分からないまま、その【命令】に身体が自動的に動かされるままに天界を奔走し、終わったと思うとまた次の【命令】が。そこには私という意識の入る余地は全くなかった。

 天使は正しく神の使いらしく、食べることも寝ることも必要がなく、ひたすらずっと【命令】をされて働く日々。


 こうして【命令】のお使いを果たしながら叫べるようになったのは、転生してどれくらいの時間が経ったか分からなくないくらいの今だ。体感的には数十年は経っている。

 因みに今、自分がどんな顔をしているのかも未だに見たこともない。小さな子供の姿で小さな羽があるとかろうじて分かっているだけだ。




「もう、意識はあっても自分の意志で体も動かせないってどれだけ職場環境が厳しいのよーーーーっ!」


 【命令】を受ければ自動で動く、まるで機械仕掛けのロボットのように淡々と仕事をこなす、それが10階位の見習い天使だったのだ。

 【命令】を受けてこなして行くことで自我が芽生え、更に長い年月【命令】をこなして経験を重ねることで階位を上げる。それが神の使い、天使という存在なのだ。



「まあまあ、最初から意識あっての見習い天使って確かに大変だったと思うけど、最初から上の階位を選ばなくて良かったじゃないか。もし選んだ階位のカードが10以外だったら、その階位に上がるまでの年月分のカードを選択し、その分の枷を受けないとならなかったと思うよ。天使には寿命はないし。神はどの存在に対しても公平だからね。じゃあ、頑張ってねーーー」


 すれ違いざまに掛けられた最近顔見知りになった9階位の天使の言葉の内容に、愚痴をわめいていた意識が止まる。まあその間も体は自動で飛び続けているのだが。


 ええーっと、もしかして、9階位に上がるだけで確か千年はかかるって言っていたような気が……?


 もし、あの時、少年神のカードで2のカードを選んだとしたら。


 数万年分もの経験分のハンデとなるカードを選び、その選んだカードの分の枷をつけられた状態での転生となった、ということだ。




「こっわぁーーーーーー!なんで私、天使なんてあの時言っちゃったのーーーーっ!!」


 この後数百年に渡り、叫びながら飛ぶ小さな見習い天使の姿が天界で見られたのだった。



 

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