第4話 「尊敬の理由」

「おい、お前ら。その辺でやめといたらどうだ?」

剣介は笑っていた。どこまでも飄々とした表情で、まるで散歩の途中のように。


「なんだ貴様……邪魔をする気か?」

「いや、ただの通りすがりさ。でも、俺はこういうのが嫌いなんだ」


役人たちは剣介を見て、明らかに警戒した。

この男——ただの町人ではない。


「やれ!」

号令とともに、二人の武士が刀を抜いて斬りかかった。


——だが、剣介は動じなかった。


一瞬。たった一瞬。


剣介の手が閃く。


バンッ!


鋭い音が響き、武士の一人が吹き飛んだ。

顔面を正拳で撃ち抜かれ、そのまま地面に転がる。


「なっ……!」


残った武士がもう一度斬りかかるが——剣介は一歩踏み込み、相手の手首を捻る。

刀が宙を舞い、次の瞬間には剣介の足元に転がっていた。


「刀に頼りすぎるなよ」


そう言いながら、剣介は軽く手を払うと、武士は腰から崩れ落ちた。

まるで、何でもないことのように。


「……あんた、一体何者だ……」

震えた声で役人が尋ねる。


剣介は少し考えた後、こう答えた。


「ただの剣術使いさ。でも、腐った幕府に従う気はない」


役人は何も言えず、慌てて逃げていった。


橋の上からその一部始終を見ていた真之介と隼人は、言葉を失っていた。

『強い』——それは当然だった。


だが、それだけではなかった。


 剣介は刀を抜かずに戦った。あれほどの武技を持ちながらも、無闇に人を斬ることはしなかった。冷静でいて、感情に流されることなく。武士としての誇りを捨てず、正しさを貫いた。


「……すげぇ」

思わず真之介が呟く。


「剣介さんみたいになりたい」

隼人も、そう思った。


この夜、二人は強くなることを誓った。

——それが、やがて二人を決定的に分かつことになるとも知らずに。


剣介は橋の下から二人に話しかける。


「おーい、お前ら今の見たか?すげー俺かっこいいだろ?」


いつもの剣介さんだ。


「かっこよかったですよ!剣介さん!」


真之介が元気に応える。


「だろ?さ、そろそろ戻るか?」


剣介は優しい。そして強い。これこそが、二人が剣介を尊敬する理由だ。

三人は道場へと戻った。


道場に戻った二人の目は、とても輝いていた。


「やっぱりかっこいいよな~剣介さん。俺もいつかあんな風になりてぇなぁ……そうだろ、隼人?」


「だな、拳一発で役人を黙らせるなんて剣介さんにしかできないよ。」


剣介は二人にどのような影響を与えたのか。二人の運命は、どうなってしまうのだろうか。


「よし、修行の再開だ!隼人、やるぞ!」


修行を再開した二人は、何だか前よりも楽しそうであった。



~数日後~

 真之介と隼人、剣介は師匠に呼ばれた。三人が部屋に着くなり師匠はいきなり言った。


「お前達には、江戸に行ってもらう。」

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