男装した幼馴染と妹がうちの男子校に転校してきたんだが!?

川上 とむ

第1話『転校生』


 俺は柊 悠斗ひいらぎ ゆうと

 ごく普通の男子校に通う、ごく普通のモブ男子学生だ。


 見た目も普通、成績も普通。スポーツは得意でも苦手でもない。

 そんな俺が唯一自慢できることは……可愛い妹と幼馴染(女)が同じ学校に通っていることだ。

 一つ問題があるとすれば……それは、俺が通っているのが『男子校』という点だ。


「私とあゆむちゃん、明日からユウちゃんと同じ学校に通うことにしたから」


 高校二年の春。幼馴染の少女――桜田 夏希さくらだ なつきから告げられた言葉を、俺は信じられなかった。


 だがその翌日、夏希は同じクラスに転校してきた。

 ウチの高校の制服を着て、腰ほどまであった長い黒髪をバッサリと切って。

 その大きな藍色の瞳に女性の面影はあるものの、ぱっと見ただけでは、線の細い美少年にしか見えなかった。ほとんど別人だった。


「あー、席は柊の隣が空いているな」


 そしてなぜか、夏希の席は俺の隣に決まった。なんだこのラブコメ展開。男子校でラブコメさせる気か。


「ユウちゃん、これで同じクラスだね」


 やがて着席したあと、俺にしか聞こえない声で夏希は言った。

 俺は呆然としつつ、彼女の胸に目をやる。それなりに大きかった胸は、平らになっていた。


「どんな魔法を使ったんだ」

「ふふ、サラシ巻いてるんだ」


 俺の視線に気づいたのか、夏希がそんな言葉を返す。男っぽさを出すためか、声も低かった。

 それこそ、俺が男子校に進学を決めた時から、「ユウちゃんと同じ学校に通いたいなぁ」と言っていた夏希だが……まさかそれを実行するとは思わなかった。


「今日、あゆむちゃんも転入してるはずだよ」


 続く夏希の言葉に、俺は天井を見上げる。

 妹は元々ショートカットだし、一人称も『ボク』だから、一見すると小柄の男子に見えなくもない。

 それでも、100%男子の中でうまくやっていけるのか?

 妹よ、兄ちゃんは心配しかないぞ。


 ◇


 そして迎えた昼休み。夏希は男子たちから質問攻めにあっていた。


「んー、趣味はゲームかなぁ。カラオケも行くよ」

「へぇ、桜田って、ゲーム何すんの?」

「基本なんでも。ロープレからアクション、ギャルゲーもやるよ」

「おっ、ギャルゲーもだってよ。良かったな田中、仲間ができたぞ」


 夏希が女であることがバレやしないか、俺は内心ヒヤヒヤしていたが……彼女は臆することなく質問に答えていた。

 ちなみに夏希のやるゲームは、全て俺が勧めたものだ。『ユウちゃんの好みを探る』とか言って始めたものばかりだが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。

 まぁ、元々友人を作るのがうまいやつだし、なんだかんだで乗り切るだろう。


 ……というわけで、俺は妹の様子を見に行くことにした。

 本人にアプリでメッセージを送ると、すぐに編入したクラスを教えてくれた。


「お兄ちゃ……アニキー!」


 それから妹のクラスへ行くと、これまたよく知った声が飛んでくる。

 知っているのは声だけで、見た目は全く違っていたが。


「歩、お前何やってんの」

「何って、アニキと同じ学校に転校してきたに決まってるじゃん」


 にへらと笑って、俺に密着してきた。兄妹だし、色々な意味で距離が近い。


「柊、その人知り合い?」

「うん! ボクのアニキだよ!」

「へー、兄貴いたんだ」


 見ると、数人の男子生徒が歩と会話していた。

 もう友達を作ったのか、兄として一安心だぞ。

 ……いや待て。妹に変な虫がついただけじゃないか。安心してる場合じゃない。


「同性としてしか見られてないし、大丈夫だよ」


 その時、歩が呟くように言う。そ、それならいいが。

 俺は安堵しつつ、歩の全身を見る。

 肩ほどまであった茶髪は短く切り揃えられ、胸は……妹の場合はサラシを巻いていないようだが、どっちかというとかなりの貧乳だし、問題なさそうだ。


「……アニキ、何かものすごく失礼なこと考えてない?」

「気のせいだろ。それよりお前、昼飯は食ったのか?」

「まだだよ。アニキを待ってたの。一緒に食べるの、夢だったし」


 歩が笑顔で言うと、周囲の空気が凍った気がした。

 これが兄と妹なら、それこそ羨望と非難の眼差しを向けられたことだろうが……ここにいるのは設定上、兄と弟だ。

 ちょっと……いや、かなり変わった兄弟だと受け取られても仕方がない。


「きょ、今日はやめておこう。日が悪い」

「えー、ちょっと待ってよ、アニキってばー!」


 思わずその場から逃げ出すも、理由がわかっていないのか、歩は追いかけてくる。

 初日からこの調子だと、これからの学校生活……いったいどうなってしまうんだろう。

 俺は多少の……いや、かなりの不安を抱かずにはいられなかった。

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