宝くじを拾った男

本庄 楠 (ほんじょう くすのき)

第1話

 福岡県北九州市の八幡に、くすのき商店街と云う古ぼけた商店街がある。昔、八幡に、国営の大きな製鉄所があった時には、大変、にぎやかな商店街であった。商店主たちも、大層、うるおっていた。それが、戦後、製鉄業界の統一や合併による変遷変化で、町もさびれ、商店街も、今ではシャッタ-商店街になってしまっていた。

 現在もまだ、頑張っている店は、八百屋、魚屋、饅頭まんじゅう屋、持ち帰り専門の寿司屋、修理が主体の時計店、乾物屋、大衆食堂、そして、角打ちをやっている酒屋の八店舗である。どん詰まりに二階建ての税理士事務所があって、商店街の中ほどには、パチンコ店がある。どの店も店内は薄暗く、くすんでいた。

 パチンコ店のネオンの光も暗く、弱々しくし点滅している。でも、音楽だけは、大音響で、昔ながらの軍艦マーチや、演歌を流していた。店名の【月光げっこう】と云う文字の淡いブルーのネオンが点滅していて、両サイドからは星のイルミネーションが流れていた。

 パチンコの台数は八十七台あった。スロットマシンは無く、パチンコ台のみである。今日は、平日の木曜日だった。時間は昼下がりの四時半、店内には客が二十五、六人居た。三分の一ほどの台が稼働していた。殆どが老人である。年金生活者らしかった。この日は二か月に一回の年金支給日だったのである。

 昭夫あきおは半年前から、このパチンコ店で働いている。歳は二十七歳だった。彼は、ここに来る前までは、チエ-ン店の、大きなパチンコ店グル-プである【タイヨウ】グル-プの宗像店に勤めていた。そこでチ-フをしていたのだった。

 一年前、チンピラの客と言い争って、怪我をさせた。その為に馘になったのである。結果的には、彼の正当防衛が認められ、遺留いりゅうされたのであるが、辞めてしまったのである。その後、ブラブラしていた時に、この商店街の大衆食堂『あじさい食堂』に、たまたま昼食を食べに来て、出前のバイトの募集の張り紙を見たのである。彼は、女将おかみさんに頼んで、雇ってもらったのである。

 この食堂には、パチンコ店【月光】のオーナ-のちょうさんが毎日、昼食を食べに来ていた。

 昭夫は彼と顔なじみになり、パチンコ店月光に雇ってもらったのである。

 超さんも、業界の事情が解っている昭夫が来てくれたことを喜んだ。

 月光は平成元年(1989年)に開店したパチンコ店であった。この時、肉屋と花屋と洋品店がまとまって立ち退いた跡地に新規開店したのだった。商店街としては、パチンコ店を商店街に入れる事に反対した商店主もいたのであったが、商店街もどんどんさびれつつあったので、集客のためには良いのではと云う意見が多く、仲間に加えたのだった。場所的にも商店街の真ん中であったので、集客には大変貢献したのである。

 パチンコ店そのものも、土曜日、日曜日は一日中満席であった。昔ほどではなかったが、まだまだパチンコファンは多かったのである。しかし、時代と共に、パチンコ店もデラックス化すると同時に、スロットの人気が高まり、パチンコ台も新機種の導入の競争となってきたのである。さらに、駐車場の広い郊外型が主流となり、街中の駐車場の無い店は、客足が遠のいていったのである。現在の月光のお客さんは、年金生活者の老人や、時間を持て余している主婦、待ち合わせ場所として利用している大学生の溜まり場となっていた。台の稼働率が50%を超える日は週に二日か三日だったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る