マリーマリー

酒部朔日

マリーマリー

気にしてないよマリー。

クラブに迎えに行ったりしたけど、

知らない誰かと出てきた時は、

ぼくは遊んでいた野良猫を落としたけど。


気にしてないよマリー。

きみの涙がぼくの製造番号をなぞった。

ぼくが恋人にもなれない立場だって、

おもしろいことひとつも言えない頭だって。


気にしてないよマリー。

一緒に育てた地球の多肉植物、

ぼくしか水をやらなくなったこと。

花芽がついたよもうじき咲くよ。


気にしてないよマリー。

百合が枯れるように死んでしまったこと。

ただマリーマリーマリー。

七十年は早すぎるんだよ。




きみが生きた静かの海の五番街。

きみとの契約を履行する。

ぼくは金属の身体にきみの亡骸を抱き入れて、

人型から棺モードに形態を変えた。

冷たいバスタブのような、流線型の白亜の色。

パズルのようだった背中の文字が読めるようになる。

『揺りかごから火葬まで寄り添います。コペルニクス葬儀社』

初めてだね、この姿を見せるのは。

そして最後だね。

きみはぼくの腕の中で一千度で燃えた。

監視ドローンのサーモグラフィにも悟られない完璧な仕事で、

ぼくたちは月の表面に消えた。


おわり

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マリーマリー 酒部朔日 @elektra999

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