(一応)清楚系Vtuber、配信でギャンブルしたらキャラ崩壊したけどリスナーにめちゃウケてV人生変わった話。(旧:配信でギャンブルやったら完全にキャラ崩壊したVTuber)

団栗珈琲。

第一章 Vtuber、賭けをする

第1話 Vtuber、我を忘れる

 茶色く、首筋にかかるかかからないかぐらいに切りそれえた髪。赤みががった目。それなりの大きさのある胸。野暮ったいパーカーをかぶり、奥の背景には白い木製の本棚。その横白を基調としたのベットには灰色の猫のぬいぐるみがちょこんと置かれている。


「はい。皆さんこんばんわー。Vliveブイライブ所属、二期生「優楽ゆうらく ゆほ」でーす」


 アバターの前には「自由」と筆文字で書かれたマグカップが置かれている。


 自然な動きを演出する2Dアバター。

 私、優楽ゆほはVtuberだ。


 配信画面に目を落とすと、優楽ゆほ Vlive二期生 チャンネル登録者数12.6万人と書かれている。


 同接数は6000ちょっと。まあ、大手事務所のライバーなのでこんなもんかなあ。みたいな感じのいまいちパッとしない数字がそこには書かれている。


 私が配信を開始するとともに、コメント欄は素早く流れる。


 :きちゃ

 :今日は一体何をしでかすんだ?


「しでかすってそんな…なにもしませんよ」


 :あっ、このひと嘘ついてます

 :見える。見えるぞ! お前は嘘をついている


「なにもません、いや――何もするつもりはないです」


 :…うん。その心意気やよし!(心意気だけ)

 :なんだかんだいって、結局やらかすんだよなー


「はい。まあ、今回は何もやらかしませんけど。とにかく、今回の企画!」

 私がそう言うとともに、ポップな文字が躍る。

「題して、競馬するぞー。というわけです」


 :へえ、競馬(察し)

 :なるほど、自分で自分の首を絞めるドMスタイルですねわかります

 :↑わかってたまるか

 :それにしても、自分で自分の首を絞めていることに未だ気付かないんですね

 :うん? こいつ清楚系だったよな?

 :↑いつから清楚だとお前は錯覚していた?


 私ははじめ、清楚で売り出していたのだが、初配信から三週間。ついに化けの皮が外れつつある。


 ということで、いろいろ吹っ切れたので、好きだったギャンブルをしようと思う。

 勿論、まだ化けの皮は完全にはがれきってはいないので、いろいろ隠し通すつもりだ。

 今はまだ「清楚(仮)」みたいな状況なので、さすがにそこまで暴れられない。


「ということでですね。もうすぐ日本ダービーが始まるじゃないですか。それに参加したいと思います」


 :ほーん。日本ダービーね

 :正直、競馬ってよくわかんないんだが…


「まあ、私も初心者なので(嘘)、とりあえず適当に買おうと思います(本気)」


 :どの馬にする?

 :ここは無難に一番人気では?

 :お前、なめんな。もっと本気で選べ

 :穴に賭けよう


「あー。私はもう決めています。とりあえず、3連単で、一着予想は三番人気の馬。二着が二番人気。三着が一番人気で」


 :3連単ってなんぞや

 :1着、2着、3着となる馬の馬番号を着順通りに的中させる投票法だよgrks

 :大丈夫か? 一番人気が三着予想で

 :かなり無難なところを選んだな

 :やるからにはもっとオッズの高いやつにすればいいじゃん


「ふっふっふ。まあ、見てないさいな」


   ✕   ✕   ✕   ✕


『さあ、馬がゲートに入りました』

 実況の声が聞こえる。

 重い、金属の重低音が鳴る。

『さあ、ゲートが開き、出走しました! さあ、第一コーナーに差し掛かっている、ここで一番に躍り出たのは…おーっと一番人気、メガミカツーネだぁぁぁ!』

「え? おいおいおい。ちょっと待ちな。メガミカツーネさん?」


 :早速予想が外れそうで草

 :さすがゆほ。俺らの期待を裏切らない


「ふん。間抜けどもめ。メガミカツーネはたしか逃げ切り型だったはずだ。なあに、心配ない」


 :そんな馬狙って大丈夫か?

「大丈夫だ。問題ない」


『第二コーナーに差し掛かっている! 状況は相変わらずだ!』


「まだ大丈夫。まだ大丈夫。まだ第二コーナー。二番手は三番人気のスンゲハエーノだから。大丈夫まだ耐えれる。だから頼む。二番人気オッブチヌキ。上がってきてくれ!」


 :本気で草

 :ちなみにいくら賭けたかお伺いしても?

「…五万」

 :まあまあ賭けてんなあ

 :少なくとも、初心者が賭けていい額ではない


『おーっと! ここでメガミカツーネが減速、三番手にまで落ちたぁぁ!』

「いよっしゃあああああ! 上がって来い! 上がって来いオッブチヌキ!」


『第二コーナーを曲がり、第三コーナーに向かっている。…後ろから現れたのは…オッブチヌキだぁぁぁぁぁ!』

「きたきたきたきたきたぁぁぁぁぁ!」


 :ちょっと、本気すぎやしませんかね

 :なに言ってんだお前。五万かかってんだぞ?


「いけ! オッブチヌキ! スンゲハエーノを抜け! いけぇぇぇぇぇ!差せぇぇぇ!」


『オッブチヌキ、スンゲハエーノを抜きました! いよいよ第四コーナーに差し掛かっています!』


「いよっしゃぁぁぁぁぁ! 勝ったぁぁぁぁ!」


『勝負ありか? いや、後ろから五番人気、テメサスノネが上がってきたぁぁぁ!』

「くんなぁぁぁぁぁ!」

『テメサスノネ、スンゲハエーノを抜いたぁぁ! これは思わぬ展開だぁぁ!』

「あぁぁぁぁぁぁ! いけ! がんばれ! スンゲハエーノぉぉぉぉ! お前が頑張ってくれればぁぁぁ!」


『テメサスノネ、スンゲハエーノを抜いたぁぁぁ! 五番人気、テメサスノネ! どんどん抜いていぅぅぅ!』


「ああああああああああ! やめろぉぉぉぉ!」


『ここでゴール! 一番、オッブチヌキ。二番、テメサスノネ。三番、スンゲハエーノ。四番、メガミカツーネ―――』


「ああああああああああ! クソがぁぁぁぁ! てめえ、テメサスノネ! 絶対に許さん! お前さえいなければ、私の3連単がああああ!」


 :ちょ、落ち着け

 :もちつけ


「あ、配信中だった」


   ✕   ✕   ✕   ✕


「最悪…」

 :うん。まあ、わかってた

 :これで完全に化けの皮とれたな

 :うん。ちょっと本気になりすぎだったね。様子見ようね


 私はリスナーに慰められていた。

 つらい。私の恋人、福沢、そして渋沢…。キミたちのことは忘れないよ…。


 :うん。渋沢さんと福沢さんに手を合わせて。合掌。グットラック

 :ま、そういう日もあるさ

 :それにしても、完全に化けの皮はがれたね。もうどうしようもないね

 :大丈夫? 息してる?


「…………」


 :返事がない。ただの屍のようだ


「…勝手に殺すな! はあ、もういいです。完全に吹っ切れました。というわけで、もうこのチャンネルは私が乗っ取った。馬鹿やるぞぉぉ」


 :ああ。清楚が。Vliveの数少ない清楚が…

 :清楚がギャンブラーになる瞬間ですね

 :清楚系AV女優並みの矛盾を感じた

 :初配信とその次の配信までしか清楚が持たなかった奴にかける言葉じゃない

 :Vtuberって大変なんだなあ……


   ✕   ✕   ✕   ✕


 こうして、私の「新たな」Vtuber生活は始まった。

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