猫
次の対戦は彩花と凛音の番だった。
「先攻後攻を決めましょうか。」
「うん、じゃあ私が先にかけるね!」
彩花が自信たっぷりに微笑み、凛音の前に座る。
「じゃあ、始めるね?」
「ええ、どうぞ。」
凛音は静かに深呼吸し、集中する。
「ねえ、凛音ちゃん。リラックスして……私の声だけに集中して……。」
彩花の柔らかい声が空間に響き渡る。
(このくらいなら問題ないわ。)
凛音は微動だにせず、催眠誘導に耐え続ける。
「体の力が抜けていくよ……まぶたが重くなって……。」
「……まだよ。」
「ふふっ、でも、こんなに近くで目を見つめられると……少しずつ……意識がとろけていくよ?」
「……っ。」
凛音のまつげがピクリと揺れた。しかし、彼女は深く呼吸し、意識を保つ。
「さあ、もう目を閉じてもいいんだよ……。」
「……まだよ。」
しかし、凛音は耐え続ける。彩花の催眠誘導は巧みだったが、凛音の精神力はさすがだった。
「くっ……結構粘るね……。」
彩花の表情に焦りが見え始めた。その時――。
「はい、もういいわよ。」
制限時間の10分が経過し、彩花の挑戦は失敗に終わった。
「ふぅ……危なかったわ。」
凛音は息をつきながら、次は自分の番だとゆっくりと姿勢を正した。
「じゃあ、次は私の番ね。」
「う、うん……負けないもん!」
彩花は緊張しながらも、意気込んで凛音の前に座る。
「では、始めるわよ……。」
凛音の静かな声が響いた瞬間、空気がピンと張り詰める。
「彩花、深く息を吸って……そう、ゆっくり吐いて……。」
「っ……。」
「体の力が抜けていくわよ……。ほら、肩の力も抜いて……気持ちよくリラックスして……。」
凛音の声は淡々としているのに、どこか心地よく染み込んでくる。
(やばい……気持ちいいかも……いや、ダメダメ!)
彩花は必死に抵抗する。
「ねえ、目を閉じたくなってきたでしょう?」
「……っ。」
彩花のまぶたがピクピクと揺れ始める。
「もう閉じてもいいのよ……。」
「ま、まだ……。」
「そう……でも、ほら、だんだん眠くなってきた……。」
凛音の声が柔らかく響き、彩花の身体がわずかに揺れる。
「……ぁ……。」
「はい、目を閉じて……深く落ちていくの……。」
彩花のまぶたが、ストンと落ちた。
「……っ!?」
「はい、彩花の負けね。」
政宗は心の中で戦慄する。
「さて、罰ゲームの内容を決めましょうか。」
凛音は淡々と微笑みながら、彩花に次の指示を考え始めていた。
凛音は目を覚ました彩花をじっと見つめ、少し考え込むような仕草をした後、口を開いた。
「罰ゲームだから……そうね。彩花、あなたはこれからしばらくの間、自分の発言の語尾に『にゃん』をつけて話すことにしましょう。」
「えっ!? そ、それは……!」
彩花は頬を赤らめながら後ずさった。しかし、すでに凛音の視線が彼女を捉えている。教室の空気が一気に静まり、政宗を含めた皆が固唾を呑んで見守った。
「ほら、リラックスして……深く息を吸って……。」
凛音の声は、普段の冷静な口調とは異なり、柔らかく、どこか甘く響いていた。
「心が落ち着いて、体の力が抜けていく……。私の言葉を聞いていると、とても心地よくなってくるでしょう?」
「そ、そんなこと……ない……にゃん……?」
彩花の目がわずかに揺れる。
(あ、もうかかってる……!)
政宗は心の中で戦慄した。
「ほら、どんどん力が抜けていくわよ……もう私の言葉を素直に受け入れる準備ができているわ。」
「わ、私は……そんなこと……ない……にゃん……!」
彩花は必死に抵抗しようとするが、語尾に無意識に「にゃん」とつけてしまう。
「ふふっ、もうすっかり馴染んでるみたいね。」
凛音がくすっと笑うと、彩花は真っ赤になって顔を両手で覆った。
「ちょ、ちょっと、こんなの恥ずかしすぎるにゃん!」
教室内が一気に爆笑に包まれる。
「う、うう……政宗くん! 助けてにゃん!」
「いや、無理だろ……。」
政宗は困惑しながらも、彩花の催眠にかかった姿を見て改めて恐ろしさを感じていた。
「はい、彩花。これであなたの罰ゲームは決まりね。」
凛音は満足げに微笑む。
「しばらくそのままだから、楽しみにしていてね。」
彩花は悔しそうに唇を噛みながら、それでも「にゃん」をつけないように必死に口を閉ざしていた。
「次の対戦、行きましょうか。」
凛音の冷静な声が響き、催眠術ゲームはさらにヒートアップしていくのだった――。
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