抵抗する相手に催眠術をかける方法

「それでは、今日は少し応用的な内容に入ります。」


水瀬沙耶が教壇の前に立ち、クラス全員を見渡しながら言った。その言葉に、教室中がざわめく。


「催眠術の基本は、相手がリラックスし、こちらの言葉に集中している状態を作ること。これまでは協力的な相手にかける方法を学んできたわね。」


政宗は席に座りながら、今日の授業がいつも以上に特別なものになる予感に胸を高鳴らせていた。


(今日の内容って、もしかして……?)


水瀬は柔らかな笑みを浮かべながら、次の言葉を口にした。


「でも、現実では必ずしも相手が素直に協力してくれるとは限りません。むしろ、抵抗されることの方が多いでしょう。」


その瞬間、政宗の中で何かが弾けた。


(来た……! ついに、抵抗する相手に無理矢理催眠術をかけられる方法だ!)


彼は興奮を隠しきれず、身を乗り出して水瀬の話を聞き始めた。



水瀬は黒板に「抵抗」と大きく書き、その下に「心理的隙」と書き足した。


「相手が催眠術にかかるためには、“隙”が必要です。これは、相手の心が少しでも揺らいでいる状態のことを指します。」


政宗はその言葉に真剣な表情で頷いた。


(隙……! それがカギなのか!)


「例えば、相手が驚いていたり、強い感情に揺さぶられているときは、暗示への抵抗力が極端に弱まり、催眠術にかかりやすくなります。ここで重要なのは、その隙をどう作るかです。」


水瀬は教壇の前に立ち、簡単な例を挙げ始めた。


「たとえば、相手を褒めたり、不意打ちで話しかけたり、何か意外な行動を取ることで、隙を生むことができます。」


クラスメイトたちがメモを取る中、政宗は水瀬の言葉に聞き入っていた。


(褒める、不意打ち……なるほど、まずは相手の気をそらせるんだな!)


「そして、隙が生まれた瞬間に、目を合わせたり、声を届けたりして、こちらの言葉を意識させることが大切です。その流れで暗示をかけていけば、抵抗する相手にも催眠術をかけることが可能になります。」


政宗の胸は期待でいっぱいだった。


(すごい……これなら俺でもできる! あとは隙を作ればいいんだな!)


彼は水瀬の説明をすべて飲み込み、自分の中で実践プランを練り始めた。


(まずは相手をリラックスさせるふりをして、不意打ちのタイミングで一気に暗示をかける……いや、もっと複雑な作戦もありかも。)


頭の中で妄想がどんどん広がっていく。自分が催眠術を駆使してクール系美少女の日向凛音に暗示をかけ、冷たい態度を一変させてデレさせるシーンが思い浮かぶ。


(凛音に「俺に従います」って言わせて……その後は……ふふふ……。)


つい口元が緩む政宗を、隣の席の夏川彩花がじっと見つめていた。


「ねえ、久我くん、なんかすごい楽しそうだね。」


「えっ!? いや、別にそんなことないけど!」


慌てて否定する政宗だったが、顔が赤くなっているのを隠しきれなかった。



「それともう一つ。」


水瀬が手を挙げて注意を引くと、教室全体が再び静まり返った。


「隙を作るには、こちらが冷静でいることが重要です。自分が緊張していたり焦っていると、相手にも伝わってしまい、逆効果になります。」


政宗は「冷静」という言葉に軽く肩を落とした。


(俺、こういう状況で冷静になれる自信ないんだけど……。)


しかし、彼はすぐに頭を切り替えた。


(でも、冷静にやれば絶対に成功するはずだ。よし、練習して絶対にマスターしてやる!)



「では、今から私が実演してみせますね。」


その言葉にクラス中がざわつき始めた。生徒たちは期待と緊張の入り混じった目で水瀬を見つめている。


「被験者は……久我くん、お願いね。」


再び指名された政宗は、思わず椅子から立ち上がった。


「えっ、また俺ですか?」


「ええ。あなたはとても素直にかかるから、ちょうどいいの。」


その一言に、教室内からクスクスと笑い声が漏れる。政宗は少し顔を赤らめながらも、教壇の前に出て椅子に座った。


(まあいいさ。これで俺が先生の技術を学べるなら、むしろラッキーだ!)


心の中でそう言い聞かせながら、政宗は水瀬の動きを注視した。


水瀬は政宗の前に立ち、少しだけ間を取る。


「いい? 今からあなたに暗示をかけるわ。」


その柔らかな声に政宗は思わず緊張する。しかし、その直後――。


「パチン!」


突然、水瀬が目の前で大きく手を叩いた。


「動けない。」


その瞬間、政宗の体が一気に硬直した。驚きと戸惑いが混じった表情で、彼は自分の手足を動かそうとするが――。


(えっ、ちょっと待て……動かない!?)


全身がまるで重りをつけられたかのようにピクリとも動かない。


「……先生、これ……本当に……?」


声を絞り出す政宗に、水瀬は優しく微笑んだ。


「ほら、もうあなたの体は完全に動かない。手も足も椅子に縛り付けられているように重たく感じるはずよ。」


その声が耳に届くたびに、政宗の体はますます重くなる感覚に包まれていく。


(うわっ、本当に椅子にくっついてるみたいだ……!)


水瀬は教室全体に向けて説明を始める。


「さっき、私は突然手を叩いて彼に“動けない”と暗示をかけました。この“突然”という要素が重要なの。驚きや動揺は、相手の心に一瞬の隙を作るのよ。」


クラスメイトたちは一斉にメモを取り始めた。


「それから、暗示をかけた後も、言葉でその効果を強めることが大切です。今のように、『体が重たい』とか『椅子にくっついている』といった具体的なイメージを与えることで、暗示の効き目を高めることができます。」


その言葉を聞きながらも、政宗は必死に自分の体を動かそうとするが――。


(ダメだ……全然動かない……!)


汗がじんわりと浮かぶ中、彼は完全に水瀬の催眠術に支配されていた。


水瀬は優しく微笑みながら、政宗に手をかざした。


「じゃあ、暗示を解除するわね。3つ数えたら、体が自由になります。1つ、2つ……3つ。」


「パチン!」


再び指を鳴らすと、政宗の体から一気に力が抜けた。


「……動ける!」


政宗は驚きと感動に満ちた表情で自分の手足を動かしていた。教室内には小さな歓声と拍手が湧き起こる。



席に戻った政宗は、今もなお興奮が収まらない様子だった。


(すごい……あれが本物の催眠術か……!)


水瀬の技術に感心しつつも、彼の心には新たな決意が生まれていた。


(でも、俺もあれをマスターすれば……女子たちを俺の思い通りに……動けなくなった女子にあんなことやこんなことも……ふふふ……!)


政宗の妄想が膨らむ中、クラスメイトたちは次の実習に向けて準備を始めていた――。

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