第5話 見るのが怖くて

「つむぎ、最近怒ってる? 」

朱音がそう聞いてきたのは、朝晩は気温がぐっと下がるのに、昼間の暑さは夏と変わらない、風邪をひきそうな9月の上旬のことだった。朱音はひどく心配そうな顔をしていた。私は、彼女の目を見ることができずに、ぼんやりと胸のあたりを眺めていた。


「つむぎ、聞いてる? 私に怒ってる? 」

もう一度、朱音は私に聞いてくる。いくらか、さっきよりも怒っているようだった。

「怒ってないよ」

私は、そう返すことしかできなかった。


キーンコーンカーンコーン


朱音は、まだ聞きたいことがあるという顔だったけれど、チャイムの音を聴いて、しぶしぶ席に戻って行った。

朱音が席につくのと同じ頃、担任が教室に入ってきた。


「はい、テストの順位出たから返すぞー」

そう言いながら、紙を配る。

紙を受け取った人たちがザワザワ話し始める。

流れ作業のようにスイスイと紙が配られていく。


流れが止まる。


「さくらばー」

朱音が呼ばれる。


朱音はまだ気づかない。もう一度、呼ばれる。


「あっ、はい!」

一拍おいて、慌てて朱音が紙を取りにいく。担任とひと言ふた言何か話しているようだった。嬉しそうな顔をした朱音が帰ってくる。席に戻る直前に目があった。朱音は、すごく嬉しそうな顔でこっちをみてきた。私は、気まずくなって顔を逸らした。


「はい、そのだー」

次々に名前が呼ばれていく。園田くんが呼ばれて、私は席を立つ。私の番まであと2人。後ろから2番目の私の席からなら、これくらいに立つとちょうどで先生の前に着く。


「はい、立花。もっとがんばれ」

その言葉と一緒に順位の紙がくる。


科目別、文理別、クラス順位、総合順位。


さまざまな種類に分けられた順位は、どれも真ん中より下で、理系科目は、私の下に20人しかいなかった。


わかっていた。自分の出来が良くなかったことくらい、わかっていた。

でも、いざそれが数字となって現れると、想像の5倍はショックだった。


誰にも見えないように急いで紙を畳んで、席に戻った。


朱音の席の近くを通った時、朱音がこっちを見ているような気がした。

でも、私は、朱音のほうを見ることなんでできなかった。


クラス全員に紙を配り終えると、担任は教室を出て行った。


その後すぐに、朱音が私のところへ来た。

「放課後、話があるから」

それだけ言って、彼女は自分の席に戻って行った。その日は、1度も朱音と目が合うことも一緒に行動することもなかった。

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