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蒼天庭球
第1話 夏期講習のおわり
「あーあ」
思わずため息がこぼれる。それと同時に右手からシャーペンがころんと落ちてカラカラと机の上を転がって消しゴムにぶつかって止まる。
頭の後ろで手を組んで、背もたれによっかかると気持ち悪いくらいの青空が目に入り、思わず目を細める。
「何ため息ついてんの、受験生?」
ふと、斜め前の席から嫌味ったらしい小さな声がする。こんなやつ1人しかいない。
「そっちこそ、勉強しなくていいんですか、受験生?」
こっちも皮肉たっぷり、小さな声でお返ししてやる。
「休憩も大事じゃないですか、受験生?」
ニヤリと笑いながら声が返ってくる。
「わたしもそう思っていましたよ、受験生?」
わたしもニヤリと笑い返す。
1拍おいて、どちらからともなく小さめの笑い声がこぼれる。
7月下旬。世間では夏休みに入った頃。大学受験を半年後に控えた私たちには、夏期講習という名の午前授業が7月末までびっしりと入っていた。しかし、今日は最終日というのもあってなのか、最後の時間は自習だった。
終わりのチャイムと共に、少しダレた空気の中、紙の束を持ちながら担任がズカズカ入ってくる。
「テスト返すぞー」なんていう担任の声と一緒に、夏休み前に受けた模試の成績が返ってくる。
「あい、たちばなー」よく通る担任の声とともに、すごすごと前に行ってA3の紙を受け取る。
席に戻る途中でちらりと見た紙の中には20やら30の文字にDやらCと書いてあるのが見える。
「つむぎ、どうだった?」
席に戻った瞬間に、斜め前の席から声がかけられる。
他人に点数見せるなよなんていう教師の話を聞いてる人はほとんどいない。私もその1人。
ほんとはあんまり良くないんだけどなんて思いながら答える。
「うん、まあまあ。ぼちぼち。そっちは? 」
「ふっふーん。A判ついにとりました〜」
自慢げに
わたしのとは違い、AとBだけが並んだ判定用紙。
「いいなぁ〜」
思わず本音が溢れる。判定用紙を持つ手に無意識のうちに力がはいっていたのか、クシャリと音をたてた紙に消えないシワができた。
「いいかー、絶対に
担任の気休めの言葉を聞き流しながら、私の頭の中はかえってきた判定のことでいっぱいだった。
あんなに勉強したのに。あんなに自信があったのに。よくできたと思ったのに。自己採点もそれなりだったのに。
「つむぎ、クレープ食べに行こ!」
上機嫌の朱音が、満面の笑みを浮かべながら言う。
「うん、いこっか!」
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