羽なんかいらない。

団栗珈琲。

羽って、必要ないものなんだろう

 私の学校には「天使」がいる。

 比喩的な意味じゃなくて、言葉の通り。


 それが私、天那あまな 使威つかいだ。

 私は、所謂「下級天使」で、下界に落とされた天使。


 なぜ、こんなにも天使が下界に落とされるのかというと…。

 最近、天界は増え続ける天使に悩まされていた。

 日本が少子高齢化に悩まされているのなら、天界は天使増大化に頭を悩まされていたのだ。

 それで、あまりにも増えすぎた天使をどうにかさせる方法として、天使下界移民運動てんしげかい いみんうんどうが活発になり、私のような平凡な家に生まれた天使は、羽の生えた人間として、天使だった頃の記憶を持ちながら、人間の赤ん坊に転生させられるのだ。


 そして、生まれたのが天使の子。

 正確には羽の生えた人間が生まれるのだ。

 この現象が起こり始めたころ、日本では神が現世に降臨なされたなどと騒ぎ立てたが、今ではそれも鳴りを潜め、ただの珍しい人間として、定着しつつあった。

 だが、珍しいものは珍しいので、好奇の視線で見られることには間違いない。


 生まれた天使の子は、普通の学校に通うのだが、そこでも好奇の視線で見られることになるのは想像に容易い。


 私は下級天使として天界から追放されたのだ。


 私は普通の人間として人生を歩んでいきたいのに、この羽の所為でどこに行っても好奇の眼差しを向けられる。


 だから私はこの羽が嫌い。

 忌々しい羽。


 そんな私でも高校に通うことだってある。

 私が通っている高校では最近ある噂がある。

 この学校には天使がいる、と。

 前述した通り天使というのは間違いなく私のことだ。


 天使といっても羽の生えた人間なのだが。

 だが、そんな人間だって恋をする。

 中学生時代好きな人に告白したものの、私の羽が原因で振られてしまったのだ。


 それ以来、何とも思っていなかった私の羽を私は嫌うようになった。

 とはいっても、この羽は私の体の一部で切っても切り離せない関係なのだ。


 専門家によると、この羽を切り落とすと同時に私も絶命してしまうらしい。

 だからこの羽とは切っても切れぬ関係なのだ。


 本当に嫌になる。

 私はこの羽が嫌いだ。


 私が窓際でそんな事を考えていると、ふと一人の人影がある。

 どうしたのだろうと、顔を上げるとそこには一人の女性が立っていた。


 だれだろうか。

 クラスメートなのだろうが、私が一向に名前を覚えれないので、もういいか。と思い、人の名前を覚えるのはもう諦めているのだが、その女性は私に向かうと。

「天那さん! 私と友達になってください!」

 彼女はそういう。

 それは別にいいのだが…。


「別にいいけど…。名前、なんだっけ?」

「ひっ、ひどいっ! まさか名前すら覚えられてない!?」


 その女性は悲しいと大袈裟に表現する。

 面白いな、と。

 失礼にもそう思った。


「私の名前は馳堂ちどう 歩実あゆみ。よろしくね!」


 歩実は笑ってそういう。

 友達、か。

 翌々考えてみると、私には友達と呼べる友達がいないな。と、そう思った。


 それもそうだ。

 この羽のお陰で、見物客はいれど、友人はいなかったのだ。


 この子もまた友達とは名ばかりの見物客かもしれないが。


「そう。よろしくね」


 私も何かせねばと、気の抜けた返事をする。

 あまりにも冷淡かもしれないが。


 それにしても、眺めるだけでなく話しかけてきたのは記者以外で初めてだ。

 それも、友達。などと。


 本当に変わった人だな。と、そう思った。

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