意外と
第2話
放課後、菅野くんは私の教室まで来てくれた。
クラスの人は相変わらず菅野くんを避けるように後ろの扉から出ていく。
「しぃ、菅野来たよ」
「う、うん!」
友達の菊乃は私を見て不思議そうにする。
「なんか、らしくないね。
いつもなら明るくアホっぽく走っていくのに」
「あ、う、うん……」
だって、眞冬先輩……。
私、キスなんてしたことないんです!
キスすらしたことないのに家でどーこうとか、無理です、無理です、絶対無理ですっ!
「椎夏?どーかしたか?」
「へっ?!う、ううんっ!
なんでもないし、何もないし、何も考えてないよっ!」
首を振りながらそう言うと少し驚く菅野くん。
「何か考えてたのか?」
「ち、違う!
私は菅野くんのこと、信じてるからっ!」
菅野くんは眉をひそめ私を覗き込む。
「また、何か俺の噂でも聞いた?」
菅野くんには黒い噂が沢山あります。
毎晩クラブに通ってるとか、暴走族のアタマだとか、タバコはもちろん女の数は星の数で、寝床はラブホだとか、なんか、すごいです。
まぁ、かくゆう私も以前信じていたのですが。
「あんなのもう信じてないよっ!」
「そうか?なら良いんだけど。
なんか、最近噂が追加されて、俺はとうとう警官を病院送りにしたらしいから」
少し笑ってそう言ったあと、わざとらしく声を出し廊下を歩く。
「あーあぁ!
俺のこと、バカにしてるよなぁー!」
そしてわざとらしく壁を叩いたりする。
驚く私と、廊下を歩く生徒たち。
「ちょ、菅野くんっ!」
「はは。冗談、冗談」
いやいや……。
あなたにとって冗談でも皆はそうは思わないからっ!
「菅野くんも、もっと噂を根絶する努力しないと」
「良いんだよ、別に。
分かってくれる奴が何人かいれば。椎夏とか」
そして私を見て照れ笑いする。
そんな笑顔に相変わらずトキメく私。
……なんか私、本格的に菅野くんにハマってきてるなぁ。
「じゃあ、椎夏。
わりーんだけど、俺チャリがあるからさ。遠回りしても良いか?」
「うん。そのつもりだったよ!」
菅野くんは五歳の弟の進くんを毎朝幼稚園に送っている。
ママチャリに乗って。
それが恥ずかしいらしく、自転車は学校から少し遠い駅前に置いて学校に来る。
その他にも菅野くんは弟のお弁当を作ったり、ワッペンつけたり、スーパーで買い物したり。
(不良少年の放課後)
お母さんみたいな男子高校生です。
「ほら、椎夏。鞄よこせよ」
「あ、うん。ありがとう」
後ろに子供が乗る籠がついた黒い自転車を押しながら、菅野くんと虹色保育園に向かう。
道行く人達はみな、まず菅野くんの容姿に目を反らし、その後自転車に二度見する。
しかし、菅野くんは保育園では人気者だ。
「たもつくんだーっ!
すすむくーんっ!たもつくん、きたよーっ」
「おー、隆文。久しぶりだな」
「ぼく、さいきんカゼひいてたから」
すると奥から清美先生が出てくる。
清美先生は進くんの先生です。
「あらー、保くーん。今日も彼女連れて来ちゃってー。よっ、色男っ!」
「清美先生、そのノリうざいっすよ。
椎夏来るのまだ二回目だし」
ため息をつく菅野くんを先生は楽しそうに見る。
「たもつはいーがいと、ヤーリ手らしい!」
変なリズムに乗せ変な歌を歌う先生は多分、楽しい人です。
「兄ちゃーんっ!」
清美先生を追い越して菅野くんに飛びつく、この元気な子供こそ菅野くんの弟の進くんです。
「ほら、先生に挨拶しろ」
「きよみ先生、さようならっ!
俺、ドッチボールうまくなるからっ!」
「ほんとー?楽しみー。じゃあまた明日ね」
そして進くんは菅野くんの手を握ると、私を見て、なぜか菅野くんに隠れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます