骨まで一緒

dede

汝とは、汝の食べた物そのものである


「骨ってカルシウムの固まりだとか思ってないか?」

「違うの?」


 私が鰯の梅煮の背骨を丁寧に嚙み砕いていると、旦那がいつものように講釈を垂れ始めた。まあ、放っておけば満足してくれるので適当に相槌を打って聞き流せばよい。最近分かってきた。そういう旦那は、鰯の骨から丁寧に肉を取り除いて口に運んでいる。


「違うよ。骨も生きてる細胞だからね。中に細かく血管通ってるし、新陳代謝を繰り返してるんだよ」


 と旦那は自慢げに斯く語れり。今にも褒めて褒めてと聞こえてきそうである。こういう時は可愛いと思うようにしている。気持ちに余裕がない時は鬱陶しいんだけどね。今は無理なく可愛いと思える。ということは私は今気持ちに余裕があるのか。良い事だ。


「新陳代謝ってことは入れ替わってるの?」


 旦那は頷く。


「今ある骨を壊して、また作り直すって事を繰り返してるんだ」

「へぇ。固いから変わらないもんだと思ってた。皮膚が変わるのは実感として分かるんだけど」


 旦那がでしょでしょ、と得意げにしきりに頷く。撫でたら怒るだろうか?

 私は自分の体をつぶさに観察する。


「皮膚は一か月ぐらいで入れ替わるそうだよ」

「あ、意外と長い。じゃ、骨は?」

「200日。一番入れ替わるのに時間が掛かるんじゃないかな」

「へぇ、1年足らずで総とっかえなんだ」

「実際には全部入れ変わるには3年ぐらい掛かるそうだけど」

「え? なんで? 骨は200日なんでしょ?」

「さあ?」


 旦那も不服そうである。私も納得がいかない。それでもそういうものらしい。世の中は不条理なものである。


「でもそっか」


 フフと自然に笑みが浮かんだ。


「どうしたの?」

「3年経つのが楽しみだなぁーって」


 当たり前だけど、私と旦那とは血のつながりはない。育ってきた環境も違う。そんな中、偶然出会い、気が合い、意気投合した末、夫婦になった訳である。そりゃね、一緒に暮らしてるうちに習慣や考え方が似てくるというのも噛み合ってくる感じがして素敵だと思う。けれどそれは、ソフト面だけの話でハードの話じゃない。やはり夫婦といっても他人は他人だ。それでも一緒にご飯を食べ続ければ、同じもので体が出来るんだと思うとそれって家族だよなぁーって思い、ささやかながら喜びを感じるのだった。


「あ、その骨、捨てるんだったら貰っていい?」

「え、人の食べ残した骨とかイヤじゃない?」

「え、なんで? だってあなたのでしょう?」

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骨まで一緒 dede @dede2

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