インヤンニアファイト -転生して美少女とモフモフに囲まれる事になったけど感謝なんかしない-

タビサキ リョジン

第1話 転生するかもしれません

今更こんなことを言うのも本当に恥ずかしいんだが、言わなければ話が進まないので言うしかない。


言っても嫌いにならないでね。


言うよ?



転生しました。トラックに轢かれて。



厳密に言うと、まだ転生したわけではないのだが、真っ白な空間に荘厳な空気を出そうとしている女神っぽい感じの女の子がふわふわ浮いているので多分間違いない。ここにくる前、トラックに轢かれたし。



その女神? は、顔立ちがちょっと幼さの残る10代後半といった感じでメイクとかも今風だったから、ちょっとコスプレ感はあるんだけど。


メイク?


これがチープなドッキリじゃなくて本当に例のアレなら転生するのもやぶさかでない。


30超えても底辺から抜け出せず、友達もいないし、兄弟仲も悪くて、実家とも疎遠だし。


現実で「どうする? 死ぬ?」って聞かれたら、アホかと言うと思うけど、実際こうなってしまえば未練はあんまりないからさ。


さあ、俺がいくのはどんな世界だろう。ゲーム風かな? リアル系かな?

あんまり過酷じゃないのがいいなあ。


あと、ヒャハハハとか笑うアホがいっぱいいる、ざまあ系とかもちょっと嫌だな。

作者、そういうの書くのすごく下手だし。


おっと、メタっちまった。そろそろ女神様が喋り出しそうなので最初くらいは神妙にしよう。

チートが貰えなくなっても嫌だしな。


「竹ノ内鉄人たけのうち てつひとさんですね……」


「あ、はい。そうです」


「残念ながら、あなたは亡くなってしまいました……」


でしょうね。


「あなたは、本来、亡くなるはずのない魂でした。そこで…/」

「転生ですか!?」

「え、あ、はい。…… えらく食い気味ですね……。えっと……、正確には転移……という形になります」

「そっちかー」

「そっち?」

「あ、いえ、なんでもないです。それで、その。チートとかは貰えるんですか?」

「チート?」

「はい」

「チートって……、あれですよね。制作者が意図しない方法や結果により使用者が意図的に公平性を損なわせる行為のことですよね?」

「ウィキぺディア見てます?」

「そういう不正行為はちょっと……、そもそも神様が作った世界に「意図しない方法」がありませんし……」

「あ、いや、そんな重い話じゃなくて、ちょっと普通じゃないくらい強い能力、くらいの軽い意味で捉えてもらえれば……」


俺はそう言って、おねだりをするが、女神のガードは固かった。



「人は皆、なんらかの才能があり、なんらかの天才なのですよ。あなた方は皆などではないのです」


優しい微笑みで、なんかいい事言った風な雰囲気出してるけど、そういう事じゃないんだよな。


「いや、でも、その才能が何かってことがわかんないからみんな苦労するわけじゃないですか。自分が一生興味の持てない才能があっても仕方ないわけですし」

「まあ、それを探すのが人生の意味の一つですから……」


「でもそれを、見つけてくれるとか、伸ばしてくれる環境があるかないかって、結構人によって差がありますよね? 小さい頃から魚が大好きで、子供の頃から有名で、将来大学の先生になれるとしても、それは親がそれを許して伸ばしたからって側面がありませんか? 『なんでそんな気持ちの悪いものばっかり好きかねえ。金にもならねえから、やめろ』って親だったら、そんな風になれないと思いません?」


ウチの親。



「そ、それはそうなんですけど、それも含めて、魂の修練というか……」


どうも、これ以上押しても貰えるわけじゃなさそうだな。

じゃあせめて、裏技知ってるゲームの世界で知識チートとかさー


あ、だめだ。俺、ゲームはやるけどライトユーザーでそんなにやり込んだゲームもないや。


上上下下左右左右BAくらいしか知らん。


ちなみにこれは、親父が昔の友達とかと飲むと絶対言ってた奴。

毎回おんなじ話しして、毎回おんなじように笑って、2時間くらい喋ったら、もう一回頭に戻っておんなじ話してたから覚えた。


俺はやった事ない。



あと、Ⅱ《ツー》コンのマイクに向かって叫ぶ、とか。Ⅱ《ツー》コンってなんだよ。


「自分の才能というのは、自分に向き合い、自分を知ることで見つかるもので……」


あ、まだ続いてた。やべ、途中何言ってるのか全然聞いてなかった。



「わかりました。すみません」


そういうと、コスプレ(っぽい)女神様は、にっこりと笑って許してくれた。


「いいのですよ。突然のことに混乱していることはわかります」


「それでは、一つ教えていただいていいですか?」

「なんでしょう?」

「なぜ、わたしを異世界に? 確かにトラックには轢かれましたが、人を助けたわけでもありませんし……。車に轢かれて亡くなる方はたくさんいます。でも全員が転生するわけじゃないですよね? もしや、そこにわたしの才能のヒント……、人生の意味があるのではないのですか?」


………………………。

………………………。

………………………。

………………………。



沈黙長ない?

よく見ると笑顔が張り付いたようになってるし、冷や汗のようなものも見える。


「えー、これからあなたが行く世界は……」

「いや、誤魔化すのめちゃ下手じゃないすか」


神様だからかな?


「えーっと、言わなくちゃダメ?」


急に上目づかいで、両手の人差し指をツンツンしながら、モジモジし始めた。


「できれば聞きたいですね」

「それはですね…………」

「はい」

「つまり」

「はい」

「早い話が……」


早く話してよ。


「言いにくいことなんですか………?」

「ええ……まあー」


それでも答えを聞くまでは諦めないぞ、という強い意志で見つめ続ける。


「一言で言えばぁ……………、私のミスですので」


でしょうねえ!!


やっぱりだわ。あー、やっぱりだわ。だって不自然過ぎたもん。

やっぱミスなんじゃん。




俺はその瞬間を思い出す。




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