浮気

「私と愛し合ったのに、ほかの女との思い出を大切にしてるんでしょ?」

レイシア様は妖艶さと狂気が入り混じった鋭い眼光でこちらを見つめてきた。

尊敬しているシスターの女を感じざるを得ない表情に、思わず見入ってしまう。

「そ、そういうわけじゃなくて!」

これ以上異端を重ねて神を失望させたくないのだ。

確かに神がお選びになったはずの聖職者が異端を起こしたりと、矛盾も多い。

おそらくレイシア様はそれが原因で『神に嫌われよう』だなんて言っているのだろう。

それでも俺は慈悲深き神を信じたい。

縋りたいのだ。

「全く関係ない元婚約者のことを自分から選んで、残して…それで忘れないようにしてるんでしょ?それって浮気だよね?」

「もうリーシアのことは何とも思ってませんよ」

「だったらさ、あの女の影なんて消して消して消して消して、全部消して…?私以外何もいらないよね?」

レイシア様は心の空白を埋めるかのように俺の手を握ってくる。

縋るように指を絡め、擦り付けてくるその様は捨てられた子犬のようだった。

彼女の温もりが絶え間なく伝わってくる。

「……わかりました。ブレスレットは誰かに譲ることにします」

「はい、よく出来ました…いい子いい子。君は純粋無垢で穢れてなくて可愛いね」

レイシア様はトロンとした甘い瞳でどんどんと近づいてきて、俺の口を塞ぐように口付けをしてきた。

魅惑的な甘さが脳を支配する。

「君は私だけを感じてればいいの。…私が全部癒してあげるね?」

「ぜ、全部って」

「あの女と神のせいですぐには難しいと思うからさ……じっくり、ゆっくりと幸せと快感を受け入れて、私だけのものになってもらうから」

レイシア様は枕元に置いてあった聖書をビリビリに破り、艶然な笑みを浮かべた。

紙切れの数々は上質な雪のように宙を舞い、ひらひらと落ちてゆく。

「…どうしてそこまで神を忌避なさるんですか」

「ユーリヒ君は……私の全てを愛してくれるの?」

レイシア様は取り繕うように不敵な笑みをし、俺に抱きついてきたのだった。



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