僕の心臓は魔王で出来ている

 健康診断でいつもの様にレントゲンを撮ると、心臓に影があると言われた。

 後日精密検査を終えて診断結果を聞きに行くと、カルテを見つめた医者が渋い顔をしている。

「どうでしたか」

 ガンですか、と率直に聞いた。気を遣われるのはあまり好きじゃない。

「いや」

 医者は首を振る。

「魔王ですね」

「魔王?」

 医者が言うには、僕の心臓に魔王が出来ているのだという。

 いつ僕の身体が乗っ取られるかわからない危険な状態らしい。

「手術ですかね?」

「いえ、もう手遅れです」

 癒着がひどくて、魔王を殺した瞬間、僕の心臓も止まってしまう。

「そんな。じゃあ僕は魔王として生きていくしかないんですか?」

「いえ、ここで死んでもらいます。世界の為です」

 診察室を逃げ出そうとすると、扉の向こうからスーツを着た男が二人出て来て、あっという間に取り押さえられた。

「どうせなら勇者だったらよかったのに」

「そうですかね……」

 医者が小さく呟いた意味は、すぐにわかった。

 無理矢理座らされた僕の目の前に、一人の女性がやって来た。

 手には作り物のような大袈裟な剣を持って、表情は悲痛に歪んでいる。

 僕の大事な、幼馴染だ。

「魔王は勇者にしか殺せません」

 目の前の勇者が声を上げて泣いている。

 魔王の僕には、どうすることも出来ない。

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