第十三話
◆◆◆
「これが……こんなことが……許される行為なのか?」
アイスバーグ共和国の公王であるオリオール公は呆然としたまま呟いた。しかし、誰も公王の呟きに反応すらしない。
ぐったり意識を失ったサーガ。尋問官が木枠を外すと異様な方向に曲がった細い腕が出てきた。まだ患部は変色しておらず、真っ白なままなのが余計に悲哀を感じさせる。
「この法律が間違っていたら、どう責任を――」
「――法律は絶対です」
愛娘への拷問を目の当たりにした公王が怒りの声で問い掛けるが、尋問官は遮るように言葉を被せた。
「法律は絶対なのです。それを守らなければ国としての体裁すら整わなくなります」
「し……しかしだ! 誤りが無いとは――」
ここで終始楽しそうにしていた局長が口を開いた。
「――聖教律に誤りはありません。マリタ正教ですら組織の奥深くまで悪に侵食されていました。それを守る為に過去の偉大な学者が起草・制定した内規を元にしたのが我が国の誇る聖教律です」
頷きながら公王の目の前に立つと三文役者のように大袈裟な身振りで語り始める。
「悲しいことですが、このような者を放置すれば
公王は怒りを収めて、また俯いてしまった。
「本当に……間違っていないのか?」
この台詞に破顔する局長。
「あはは、教会に、この国の法律に間違いなどある訳がありません! あははは」
折れた右腕を雑に真っ直ぐに治すと、騎士がそのまま抱えて部屋から運び出そうとしていた。
「何処へ運ぶのだ?」
狼狽える公王がか細い声で聞くと、尋問官と呼ばれた男、ベルナールが後片付けをしながら事務的な声を出す。
「司法局四階の尋問室です。法律に則り、これから三日おきに尋問し回答が否定なら手足を折ります。そして、これは八回繰り返されることが決まっています」
「もし……あの娘が……」
声が詰まる。
「……もし八回の尋問に耐えたら娘はどうなるのだ?」
尋問を否定せず、今後のことを聞くのは愛娘が拷問されることを認めるようなものだ。最早ぶら下げられた小さな希望に縋り付くしかない。
それは『諦め』と同意なのを公王も分かっていた。
「一ヶ月の尋問に耐えることができたら、半年の幽閉を経て解放となります」
尋問官は淡々と答えている。
「尋問と幽閉の両期間内で被疑者が肯定しなければ、疑いは晴れ自由の身となります」
そう呟くとサーガを抱えた騎士に付いて部屋を出て行ってしまった。最後までニヤけていた局長は一礼すると何も言わずに部屋から出ていった。
「……神よ。我が娘、サーガを救い給え……」
部屋に一人残った公王は呟くことしかできなかった。
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