第十一話
◆◆◆ 帝国歴 二百八十七年 五月
アイスバーグ共和国 王宮
出掛けたばかりのサーガが襲われたことが伝わると、急ぎ騎士団が迎えに行くと決まった。正しく蜂の巣を突いたような騒ぎで文官、騎士団を問わず皆が混乱していた。
自らの娘が襲撃されるという暴挙に王妃も混乱していたが、やるべきことは見失っていないようだ。公王の執務室にノックもなく入っていった。
「陛下、何が起きたんです?」
「お前か。まだ分からん。ただ、サーガは無事ということだけは伝え聞いている」
公王は詰め寄ってくる王妃を宥めながら何とか愛娘が無事ということだけ伝えることができた。すると王妃も若干落ち着きを取り戻してきた。
「全く、あの子は何をしているのやら。本当に面倒ばかり掛けて……」
「そうだな。取り敢えず、どうにか司法局へ入る前に会いたい」
その言葉に驚く王妃と諦めの表情の公王。
「何故? 先ずは何が起きたか本人の口から聞きたいですわ。その上で折檻すべきなら猛烈にしていただかないと!」
「まぁ待て。
「えっ……それは……まさか!」
「その筆頭騎士はサーガを護って戦死だ。恐らく相手は……」
公王と王妃が見つめ合う。二人の表情には驚きと諦めが浮かぶ。
「なんとかならないのですか!」
王妃が再度詰め寄る。迫力に負けて公王が思わず
「だから待てと言っている。司法局に入る前に会えるよう秘書官に動いてもらっている」
「では急ぎませんと!」
扉に向かうが開ける前にノックが聞こえてきた。振り向き公王に目をやると、目を閉じて少しだけ項垂れている。王妃は扉を不機嫌そうに睨み返した。
「誰です? 入りなさい」
扉が開くと入ってきたのは秘書官ではなくニヤケ顔をした男だった。王妃も見知った男で、彼こそ司法局の局長だった。その顔を見て苦虫を噛み潰したような表情に変わる王妃。
「これはこれは王妃様、ご機嫌麗しく――」
「――おべっかは良い。それでサーガはどうなったのだ?」
嫌味な顔でニヤリとほくそ笑む局長。
「はい。それは今からです。すぐにサーガ様はこちらにいらっしゃいますから」
「……」
無言の公王を一瞥すると、王妃は首を数回横に振った。
「局長。お忙しい中お手を煩わせてすまない。今から陛下と娘と三人だけで少し話したいの。だから席を外してくださる?」
きつい表情で睨みながら否定を許さないという口調。それを見た局長は逆にニコニコし始めた。
「法律は遵守すべきです。それは守られなければいけません。悪病と関わった者は国に入ったら直ちに尋問を受ける。この法律はご存知でしょう?」
「五月蝿い。そんなことは聞いていない。席を外せと言っている!」
「これはこれは、さてどうしましょう」
王妃は局長に詰め寄るがニヤニヤしながら態とらしく後退りするばかりで出ていく素振りはない。
すると、数名の騎士が無言で入室してきた。真っ白な鎧を着込んでスカーフのようなものを顔に巻いて表情も窺えない。
「聖教騎士団か……」
「はい。この国の守護者です」
二名の騎士は詰め寄る王妃と局長の間に割り込むと気をつけの姿勢をとった。
「無礼ぞ。そこを――」
「――この法律、聖教律に反抗すれば、例え王妃といえど極刑免れませんぞ」
「なっ……」
ここで公王が王妃の肩を叩いた。
「あの子に賭けよう……」
「あっ……あの子はそんなに器用ではありません!」
大声を出したところで困惑したサーガが部屋に入ってきた。
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