第6話 気の毒に

「あー、まったく、1日のリラックスタイムが台無しだよ。」

 明浩は、結局弟と一緒に風呂に入ったらしい。俺は、缶ビールを明浩に渡してやり、味噌汁を温めに行く。


「もし、お風呂で襲われたらどうするんだよ!」

 佳浩は、風呂上がりの牛乳を持ってソファに座り込む。

 身長が目標に到達してない事も最近の悩み事だ。


「何も居ないのだから、襲われないの!」


 不毛な争いが始まるのか?

 味噌汁をテーブルに置くと、2人共、焼き鳥やおにぎりにありつく。


「とりあえずなんか助けてやれよ。コツコツと窓を叩くらしいから。」

 貴浩は、缶ビールを片手に、焼き鳥を食べなから弟達を見る。


「叩くのかよ。良かったじゃないか、フレディみたいにキーって爪で音たてないでさ。」

 明浩は、鉤爪で窓を引っ掻く真似をする。


「誰それ?ボーカルの人?」


「よっくん、その人のほうが古い。」

 貴浩は、思わず笑う。


「京崎が洋楽好きなんだよ。だから知ってる。」

 京崎くんが洋楽?へぇー、意外。


「こっちはホラー映画!」

 まだ、明浩は、フレディの爪やってる。


「ホラー映画なんか、絶対見ない!」

 だよねー、生配信されているようなもんだろうなー。


「でも、なんで付いてきたの?」

 貴浩は、窓を見るが黒い塊は居ない。

 明浩、効くなー。御札だな。動くのが難点。


「朝、学校に行く途中、道にうずくまっている男の人がいたから、大丈夫ですかって言ったらこうなった。」

 気の毒に。


「分からないぐらい、リアルなのかよ。」

 明浩は、おにぎりを頬張る。


「分からなかったんだから、仕方ないだろ。」


「いつまで居るのか聞いて来いよ。」

 明浩、それは御無体な。


「知らないよ。居る間は、明兄と一緒に寝る。」


「うわっ、うぜぇ。豆太と寝ろよ、それに頼める友達いるだろ。」


「京崎が居る時は出ない。明兄と同じ。だから、何も出来ないって。」

 佳浩は、拗ねたようにおにぎりを頬張る。


 しかし、困った。


「明浩、お前、弟に付きまとわないように頼んできて。」

 貴浩は、明浩に言うと、さも嫌そうに呟いた。


「アホくさっ。」

 やっぱり、無理か。貴浩は、窓を見つめてため息をついた。


 このままじゃ、よっくん辛いだろうなー。


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