憧れの異世界転生をしたが、美女が多すぎて俺のムスコはもう我慢できそうにない

飯屋クウ

誘惑者

森の中で目を覚ました高峰昇たかみねのぼるは、周囲を見渡している。

ここはどこだ、俺は死んだはずだ、と。

直前の記憶を辿り、思い返してみる。

いつもの帰り、暴走車が突っ込んでくるその瞬間、トレーニングで鍛えた心、ジムで作り上げた筋肉、ヨガで柔軟にした四肢を駆使して華麗に回避したあと、通りすがりの老人の自転車に跳ね飛ばされたことを思い出したのだった。


「つまり、これは…異世界転生!?」


歓喜!

愉悦!

至福!

巷で噂され、都市伝説と化していた異世界転生を、己が身をもって経験できたことに喜びを感じていた。

昇が転生を望んだのは、人生に疲れたからではない。

会社の仕事が嫌だったからではない。

彼女が出来なかったからではない。

可もなく不可もなく、自由でも不自由でもない、至って普通の人生。

その誰にでもある普通を生きていたが、そんな脈絡のない人生を少しでも変えたいと、常日頃思っていた。

しかし、特技は多くはなかった。

だから昇は、いつ転生しても良いように、身体だけは丈夫に準備しておこうとトレーニングやジムにヨガなど、あらゆるフィットネスに精を出していた。

その結果、暴走車を回避することに成功したが、周囲不注意による自転車追突事故を起こしてしまったのだ。

転生後の身体が、そのままの鍛え上げた肉体だったのは、彼にとって僥倖だった。


「能力は?」


見た目に変化はない。

職種ジョブスキル能力値ステータスが視えるということもない。

魔力は感じ取れるが、よくある魔法を唱えても発動はしない。

格好いい技名を言っても、想像したような高速移動はできない。

無能力で転生した可能性があることに、昇は絶望していた。


「そんなバカな…」


途方に暮れていたが、ゲームであるような始まりの地ならば、チュートリアルがあるはずと考えた昇は、まずは森を出ることにしたのだった。




§



森を抜けた先に、人の匂いを感じた昇は、チュートリアルを開始してもらうため、声のする方へと急いだ。


「あのぉ、すみません」


川の畔で水くみをしていた人物に、声をかけた。

振り向いた人物は、清潔とは言い難い衣服を身に纏っていた、村人風の少女。

ただし見た目は、美女。

将来有望視されるほどのレベルだった。


「んな…なにぃ!?」


突如身体の下腹部にエネルギーを感じた昇は、咄嗟に両手で覆う仕草をする。


『ギンパラ5%』


見知らぬ声が脳を刺激する。

機械染みた音声。


「ギンパラ、だと…?」


少女には聞こえていない。

独り言を喋り続ける男にやや不信感を抱いていた少女だったが、その場から逃げ出すようなことはしない。

なぜなら正座をして水くみをしていたがために、足が痺れていたからだ。


「強引に動くのは良く無い。そのまま足首を交差させて体重を乗せてみてくれ」


十数秒後、痺れは解消されていた。


「ありがとうございます」


立ち上がりお辞儀した少女に感じたのは首を押さえるような仕草。


「待て、首もこっているようだからマッサージしてやろう」


『ギンパラ7%』


「首コリのほぐし運動も教えてやろう。背筋を伸ばして両肩をすくめるように持ち上げて10秒ほどキープ、その後は肩を落として脱力だ。首を前右後左の順でゆっくり10回ほど回す、これも効果的だ。是非、毎日やってみてくれ」


昇は、普段取り組んでいたことの蘊蓄うんちくを垂れる。

少しばかり首回りのコリも取れたのか、少女は喜び、昇に抱きついた。

腹部に柔らかい感触のあった昇だったが、少女に欲情する大人ではないと、自分を戒め、密着した肌を離れさせた。


ギンパラ…通称ギンギンパラメーターとは、高峰昇が感じ取る精力のこと。

この力は100%に達すると超爆発(自爆)を起こすという、爆弾。

昇が、この世界で唯一使える能力であるが、使用したら最後、絶命してしまうがために、使用はできない。

数値を100%にしないこと、上昇した数値を下げること、これがこの世界における、彼に課せられた試練でもあるのだった。





§



昇は現在、王都へと来ている。

彼の毎日は驚くべきほど忙しい。

蘊蓄は評判を呼び、彼の施術を受けようと訪れる者が後を絶たないからだ。

列待ちは多い。

また一人、また一人と相手をしたり助言している彼のギンパラ度は上げ下げを繰り返している。

そして今日この日、最後のお客様はこの国の王女様だった。

もちろん美女。

街の女性も美女だが、王女はもっと美女。

スタイルは言わずもがな。

婚約者も決まっていない。


『ギンパラ30%』


数値は初めて30%へと達した。

恥を見せてはならないと、自分のムクムクを抑えようと、やや前屈みになり、股を狭め、尻筋に力を入れる。


「きょ、今日はどういったご要件で?」


「足が…」


「これは…浮腫んでますね」


「むくむ?」


王女の足は浮腫んでいたがために炎症を起こしていた。

王宮で長時間同じ姿勢でいることが原因。

運動不足というのもあり、血流が低下し炎症を引き起こしていた。


「足元をマッサージしましょう。優しくツボを押す感じで。それと軽いストレッチをお教えします。私の動きに合わせて…はいワンツーワンツー、これを繰り返し行えば自然と浮腫みは取れますし、毎日の予防にも繋がりますよ」


「本当です、ありがとう御座います」


王女は、御礼とともに熱い抱擁を求めてくる。

この世界の女性は、御礼の度に抱擁するのが習わしなのかと思うくらい毎日抱きつかれていたために慣れてはいたが、流石は王女、身に付ける香水は惹きつけるほどの芳香で、その柔らかな乳房は街の女性を簡単に超える。

ギンパラ値は、45%にまで上昇していた。


「身に余りますゆえ、ここまでに」


身体と身体を離してもギンパラは40%前後とすぐには低下しない。

王女ほどのレベルとなると、その余韻は中々冷めないのだ。

自分の能力を理解している昇は、これはマズイと判断し、一人になったあとも、黙々と体を動かす。


「レッツエクササイズ!」


これは自分を生かすための手段。





§




あくる日、昇はとある場所へと来ていた。

国王からの依頼で赴いた場所は人里から離れた森の奥地。

寒冷地帯とも密接するその地域にいたのは、美女美女美女。


「エルフ…だけでなくダークエルフもいるとは、な」


『ギンパラ60%』


布面積の少ない衣服を纏う彼女らを前にして、対面するだけでギンパラ60%を超えるとは夢にも思っていなかった昇だった。


「貴方が、例の…国王の言っていた者?」


返事をした昇はお辞儀をしたまま姿勢を戻さない。

前屈姿勢をもはや解くことはできない。

それほどまでに彼のムスコはギンギンだったのだ。

凄い能力を持っていたのであれば、女性達を毎晩相手にしていただろうが、昇にそのような勇者染みた能力はない。

攻撃魔法は使用不可の自爆のみ。

知識がある以外は、非力な人間と一緒。

セクハラしようものならエルフだけではない、国王からも叱責され殺される可能性があるため、彼は彼のできることをして生きていくしかなかった。


「エルフさん達は、どこか痛みが?」


「腰よ」


「腰痛ですか。ここは寒冷地に近いのもありますので、寒さで硬直したのでは?魔法で全てが対応できるわけではありません。衣服ももう少し着たほうがよろしいかと思います」


露出を控えてほしいと、そう思った昇だったが、エルフはそれを受け入れなかった。


「至極当然なことを言わないで。私達が聞きたいのは、そのえくささいずと言うやつよ。まっさーじとやらもしてくれるんでしょう?」


確かに、腰痛に効くマッサージはある。

だがしかし、面と面で触れてしまった場合、理性が保てるか、ギンパラが100%に達しないか、それを危惧していたがために、昇はマッサージしたくなかった。

断れば何をさせるかは分からない。

仕方なく彼女らの要望に応えるしかなかった。


「では、いくつかお教えします。まずは脊柱起立筋を鍛えましょう。うつ伏せになり両ひじを立て、息を吐きながら上体を起こしキープ、息を吸いながら戻す。これを5セット。それと四つん這いになってください。息を吐きながら背中を丸め四つん這い姿勢に戻ります。今度は吸いながら背中を反らしてお尻を突き出します。これも5セットしましょう。腰方形筋のストレッチですね。腰椎の負担軽減になります」


「ほう、これはなかなか」


数多の美女が四つん這い姿勢になる光景。

男であれば誰もが喜ぶ光景だが、昇は違う。

これ以上、ギンパラ値を上げることはできない。

黙々と仕事の一環として、伝授していく。


「あとは、電気も効果的ですね」


「あんっいい!」


エルフ同士で腰に雷撃を当てた直後にマッサージをするという荒業。

電気治療によりギンパラは増々上昇していく。


『ギンパラ75%』


流石に恐怖も感じてきた昇は、自身もエクササイズを行う。

体を動かすことで欲望を発散する、この繰り返し。


「御礼に熱い抱擁を」


「まま間に合ってます!」


昇は急いでその場を後にした。





§




それからも昇は、様々な種族の相手をしていた。

同性の場合はギンパラ値は上昇しない。

女性のみ。

しかし、この世界の女性は美女ばかりで、生と死の狭間を行き来する毎日だった。

彼に安寧は訪れない。

評判は評判を呼び、ついにあの者がいる場所へと赴くことになる。

そこは、数多の魔族を支配する魔の城。

魔王との面会である。


「貴様が我の痛みを和らげるものか?」


「は、はひぃ〜」


ギンパラ値は0%。

萎縮して小さくなっている。


「ふん、まぁ良い。人間は大抵そうなる、恥じる必要はない」


「ま、魔王様はどこが痛むのでしょうか?」


「ここだ」


指差す場所は心臓。


「え?」


「我の痛みは心よ。知っているか人間?魔族の心の痛みを取り除くには人間の恐怖心がいる。阿鼻叫喚が欲しい。勇者を倒したあとの毎日は、面白みが欠如しているからな。ここは1つ余興をしようではないか。我の飢えと渇きを満たしてくれ」


異空間から出てきたのは、黒装束を身に纏い、黒い角の生えた人間。

昇は、面識があった。

王国で施術をした者達。

王女と女王その2人。


「闇堕ち洗脳案件!」


『ギンパラ90%』


2人の美女は魔王の言われるがままに、昇を翻弄していく。

魔法攻撃も覚えた彼女らに、昇は為す術がない。

鞭で打たれ、足で蹴られ、両側からその身体をもって締め付けられる。

ギンパラ値が上がらない理由はなく、99%になった。


「はぁはぁはぁ」


「ほう?まだ耐えれるか」


「はぁはぁ…」


「これらなどうだ?」


魔王は己が身体を女体へと変貌させる。

究極変身。

その姿はまさしく最強の美女。

美女魔王は、昇の頭を激しく踏む。

踏む踏む踏む踏む踏む。

その振動は身体全体へと繋がり、脈打つ。


ギンパラは100%を超えてしまった。


「はっ?」


美女魔王の間の抜けた声とともに、光が充満する。


光は一瞬にして弾け飛び、魔王城を包みこむ。


光の柱が消えた頃、魔王城のあった場所には、1人の人物が立ち尽くしていた。


『ギンパラ0%』


発散を終えた彼は眼下の骸、今にも消えそうな美女魔王の欠片に目をやる。


「あっ…あ…」


美女魔王が倒されたことにより、王女と女王の2人も解放された。

消し飛ばなかったのは、高峰昇の超爆発が神属性だったからである。



「勇者さま素敵です」


但し、建物や衣服は消し飛ばしている。


2人の裸体の抱擁に男の裸体が耐えうる筈もなく、ギンパラ値200%を超えた高峰昇はオーバーヒートして倒れた。


彼が目覚めたのは1ヶ月後である。







【完】





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