第2話:悠太と由梨菜の思い出(回想)

——由梨菜が家に帰ると、彼女から宮崎ツアーガイドを頼まれた悠太は、自然と由梨菜との出会いを思い返していた。


(回想)

悠太が由梨菜と初めて出会ったのは、小学1年生の冬休みのことだった。


「悠太、明日ね、熱海に住んでる香織おばさんが宮崎に帰ってきて、みんなで一緒に由布院に旅行に行くことになったよ。」悠太の母、桂子が楽しそうに言った。


「香織おばさんにはね、由梨菜ちゃんっていう、悠太と同じ歳の女の子がいるとよ。すっごく可愛い子だから、仲良くしてあげなさいね。」


悠太は昔からシャイで、女の子と話すのが得意ではなかった。でも「可愛い」という言葉に、少しだけ胸を躍らせた自分がいた。


そして、二人は出会うことになる。


「ほら、由梨菜!いとこの悠太くんよ。挨拶しなさい。」香織おばさんが由梨菜の手を引き、悠太の前に連れてきた。


「こんにちは!よろしくね!」

由梨菜は恥ずかしそうにしながらも、はっきりとした標準語で挨拶をした。その瞬間、悠太の心臓はドキドキと鳴り響いた。


色白の肌、大きく澄んだ二重目、長い睫毛――南国宮崎では見かけないような都会的な雰囲気の女の子。そしてその言葉のイントネーションにも、不思議な魅力を感じた。


「ほら、悠太!ちゃんと挨拶せんね。」母に促されるが、緊張で声が出ない。


「こ、よろしく…。」やっとの思いでそう言ったが、声が震えていた。


「あらあら、ゆうちゃん、由梨菜に緊張してるのね。かわいいわ〜。」香織おばさんが微笑むと、両親と由梨菜も笑い出した。


悠太は恥ずかしくて、顔を真っ赤にした。その時、悠太は心の中でこう思っていた――まさか親戚に、こんなに可愛い子がいるなんて。


そしてバス旅が始まると、悠太は由梨菜の隣に座らされた。最初は緊張して何も話せなかったが、由梨菜が終始、学校のことや好きなキャラクターの話など、楽しそうに話しかけてきた。


「ゆうちゃん、アルプス一万尺できる?」


「や、やったことない…。」


「じゃあ、教えてあげるね!」


由梨菜が手を差し出し、二人で手遊びを始めたが、慣れない悠太は途中で止まってしまった。由梨菜は「大丈夫だよ!」と笑いながら、何度も一緒にやろうと誘ってくれた。その笑顔に、悠太は不思議と楽しくなり、少しずつ緊張もほぐれていった。


いつの間にか二人とも眠ってしまい、気づけばバスは由布院に到着していた。


ホテルでは、由梨菜が持ってきたすごろくで遊んで、両家族が盛り上がった。翌朝、由梨菜がオネショをして怒られて泣いていたが、その姿さえも可愛らしく、悠太はつい笑ってしまった。


帰りのバスでも、隣に座った由梨菜は、悠太にたくさん話しかけた。今度は悠太も自分のことを話し始め、由梨菜が楽しそうに聞いてくれるのが嬉しかった。


宮崎駅に着き、別れの時が来た。


「由梨菜、ゆうちゃんにさようならしなさい。」香織おばさんが促すと、由梨菜は泣きそうな顔で叫んだ。


「いーやーだ!」


その声を聞いて、悠太も同じ気持ちだった。


「じゃあ、宮崎に置いて帰るわよ。ゆうちゃんと一緒に暮らしなさい。」香織おばさんが冗談交じりに言うと、由梨菜はさらに困った顔をして駄々をこねた。


「それなら、ゆうちゃんに今度熱海に遊びに来てねってお願いしなさい。」


「ゆうちゃん、遊びに来てね!」


「うん、絶対行く。」


「約束だよ!」由梨菜が笑顔で差し出した手を、悠太はしっかりと握った。


「またね。」悠太がそう言うと、由梨菜も手を振って「バイバイ。またね!」と笑った。


その別れは悠太にとって忘れられないものとなり、由梨菜のことが頭から離れることはなかった。しかし、宮崎から熱海へ行く機会もないまま、日々は流れていった。そして気づけば、悠太は18歳になり、新しい生活を迎えていた――。

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