第5話 終わりの始まり
【数分前】
俺はその現場を目撃していた。
(アイツ、厄介な事に巻き込まれてんな……)
戻るのが少し遅いなと思って見にきてみたら……面倒だな。
確かに、アイツの顔は割と整っていて、世間一般で言えば美人、の部類に入るのだろう。だからこそ、こういう輩が飛びついてくるのもおかしな話ではない。
(これ……どうすっかな)
そんなことを考えていると、ソイツはそのおっさんに連れ去られそうになっていた。
(……まあここで引き返してもどうせ面倒な事にだろうし……いいか)
そうして俺はそのおっさんに声をかけるのだった。
○○○
「……俺の彼女、返してもらうぞ」
「はあ? させる訳……」
そうして俺はおっさんが話してる途中に、腹部に飛び蹴りをかましてやった。
(ドンッ)
「……ぐっ」
おっさん体制を崩してソイツを離した瞬間、こちらに抱き寄せる。
「くそ……貴様ぁ……」
おっさんはゆっくりと立ち上がり俺に向き直ると、そのナイフを向けて突撃してくる。わけなのだが……
「死ねオラーッ!!」
「遅い」
俺は抱き寄せていたソイツを近くにやった後、突撃してくるおっさんのナイフを蹴り上げる。
(キーンッ)
「んな!?」
そのナイフはおっさんの手から離れ、あらぬ方向へと飛んでいった。
おっさんが怯んでいる隙に俺は、
(ボゴッ)
渾身の後ろ蹴りを腹に叩き込んでやった。
「がはっ……」
そう言ってそのおっさんはその場に倒れ込んだ。
(ふう、取り敢えず何とかなったか)
そんなことを思いながらも、俺はそこで座り込んでいるソイツに視線を向ける。
「おい、お前の方は大丈夫……」
俺がそう声を掛けようとすると、ソイツは小さく震えながら泣いていた。よほど怖かったらしい。
「……おいおい、コイツはもう気を失っているから、もう心配する必要は……」
(ガバッ)
その言葉を言い終わる前に、ソイツは俺を抱きしめてきた。
「……急に抱きしめるなよ。びっくりするだろうが」
「……った」
「え?」
「……怖かったです。急に連れられそうになって、本当に怖かった。けど、貴方が助けてくれた。本当にありがとう」
「……別に感謝する必要はねえよ。これが俺の仕事だろう?」
「……うん……」
そうして俺はしばらくその場で抱きしめられるのだった。
○○○
その後俺らは警察を呼んで、そのおっさんはそのままパトカーで警察署まで連行されてった。俺らは事情聴取を受けたのちに解放されたのだが、すっかり空は暗くなっていた。
そうして俺らが並んで帰路を辿っていると、ソイツは声を掛けてくる。
「……今日は助けてくださってありがとうございます。おかげさまで……」
「もういいよ! だから何回も言ってるがこれが俺の仕事なの! 以上終わり!」
「いえ、やはりちゃんとお礼を言わなくては……」
「十分伝わったから! わかったから!」
そんな会話をしていると、ソイツの空気が少し変わった。
「……では、最後にこれだけは渡させてください」
「え?」
そう言ってソイツは紙袋から包装された何かを取り出した。
「今日が何の日か、覚えていますよね?」
バレンタイン。俺には全く無縁なものだと思っていた。
「これを……受け取ってください」
そうしてソイツは俺にそれを渡してきた。
「……中身はなんだ?」
「……わざわざ聞かないでくださいよ」
「……そ、そうか」
この箱の中はチョコだと、俺は察する。
「……あ、ありがとうな」
「これからもまた、私の彼氏としてお願いしますね」
「……お、おう」
予想外の出来事に俺は上手く対応できていなかった。
『……今日はバレンタインですね。歩夢君』
『だからどうした』
『いやいや、チョコレートを貰う相手はいたりするのかなと思いまして』
『いるわけないだろ。そもそも、そんな奴がいたとしたらお前は俺を彼氏として選んだりしなかっただろ』
『……そう……ですね。それもそうですよね』
『……?……』
『いえ……折角のデートなので……少し張り切ってしまって……』
『え……これってデートだったの?』
『え?逆に何だと思ってたんですか?』
『いや俺はただお前のわがままに振り回されただけかと……』
『違いますよ!』
(今までのコイツの発言は……?)
と、俺が考えている時だった。
(チュッ)
頬に何かが触れる感覚があった。それが何か、気づくまでに時間がかかっていた。
俺はコイツにキスをされていた。
「……は?」
そして、そのままコイツは俺に笑顔を浮かべながら、言った。
「……好きですよ、歩夢君」
俺は理解できなかった。急な展開が続きすぎていて。
何故コイツはこんなことを言い出したのか。何で俺にチョコを渡したのか。そもそも何で俺は……
そんなことを考えているとソイツは続け言った。
「それに、貴方を彼氏として選んだのは君が私をこ
(ヒュゥゥゥゥゥ グサッ)
前方から何かが飛んできていた。
しかし、それに気づいた時にはもう遅かった。
「……おい!? お前!?」
ソイツの頭にはナイフが突き刺さっていて、そこから血がドクドクと流れ出していた。
「返事をしろ!? おい!?」
俺はソイツの体を揺さぶり、返事を求める。だが、返事が返ってくることはなく、身体もだんだんと冷たくなっていった。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
その叫び声は、深夜0時の静寂を打ち破るように響き渡るのだった。
○○○○○○○○○○○○○○○
どうも、レンジでチンです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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