第2話 チョコに飢えた男

 教室に向かうまでの道のりで、俺はいろんな話を耳にした。



「なあなあ、お前はチョコ貰う相手はいんのかよw!」


「いねーよバカ! そっちこそ、貰えないくせにw!」



「……ねえ、チョコ持ってきたw?」


「いやいや、渡す相手いないしw」



主に、今日のバレンタインについてのことだった。


(やっぱりみんなそういうこと意識するんだな)


 と思っていると、やがて教室にたどり着いた。


 そうして自分の席に着くや否や、ある男が俺に話しかけてくる。


「レンジ、聞いてくれないか」


 コイツは杉宮すぎみやきょう。高校に入学してからなぜかずっと俺に話しかけてきて、何でもないことを言ってくる。俺の数少ない知っている側の人間だ。


 そしてこいつから俺は【レンジ】と呼ばれている……俺的には呼び方なんてどうでもいいのだが。


「何かあったのか? お前」


 俺が聞き返すと、ソイツは質問を繰り出す。


「今日が何の日か知っているか?」


「確か……バレンタインだろ? それがどうした?」


 そうして響はその一言を口にする。




「……僕はチョコが欲しいんだあああああぁぁぁぁぁ!!」




「……」


「スルーすんなよ!」


「いや……そんなことかよ」


 俺はそんな響の言葉に呆れていた。


「そんなこととはなんだ!?」


 響は叫びながら言った。


「僕は今日が待ちきれなくて、昨日は一睡もできなかったんだぞ!!」


「……ふーん」


「なんだよ!? 冷たいな!?」


 そんな感じで俺らが軽口を叩き合っていると、響は話を切り替えた。


「……そういえばレンジ、あの桃瀬さんと付き合ってんだろ? チョコの一つや二つ、貰えたりするんだろうな?」


「貰えねえよ。何言ってんだ」


 さも当たり前かのように俺は言った。


「……え?」


「……え?」


 お互いに戸惑いの声が漏れる。


「……いやいや、流石に嘘だろ。僕のために空気を読まなくても……」


「いやだから、別にアイツは俺が好きで付き合ってるわけじゃないんだから、貰えるわけがないだろ」


「……へえ、そうか。って事はまだ僕にもチャンスが……」


「それだけは無い」


「やっぱなんか冷たいな! いつも通りだけど!」


 そんなギャーギャー騒ぐ響を横目に俺は、


(……まぁ、アイツがくれることはないだろうな)


 と考えるのだった。




○○○




「……レンジ、起きろ」


「……」


「……起きろ」


「……うーん」


「……起きろって言ってんだろ!!」



(ゴンッ)



「痛っ……何すんだ!」


「お前が起きないからだ!」


 俺は響に殴られながらも目を覚ました。


 既に午前の授業は終わって、昼休憩に入っていた。どうやら授業中に寝てしまっていたらしい……まあ、いつものことなのだが。


「……よくもまあそんなに寝られるよな」


「お前も寝不足なんじゃなかったのか?」


「僕はレンジと違って真面目だからな!」


「うるさいなぁ……」


 とは言うものの、この男案外頭がいいのだ。テストでは大体30位以内くらいには入っている。そう言うところだけは、素直に尊敬できるところだ。


「……なんか僕のこと馬鹿にした?」


「いや別に」


「そうか……それじゃ、僕は購買に行くから」


 そう言って響はその場を去るのだった。


(……俺も行くか)


 そんな事を思いながらも俺は席を立ち、ソイツが待つその場所へと足を運ぶのだった。




 そうして屋上のドアを開ける。因みにこの高校は珍しく、屋上に入ることが許可されている。そのため時々誰かがサボるために来たり、待ち合わせに使われたりする。


 それはそれとして、目の前にいるコイツは、何故か屋上でお昼ご飯を食べることに固執している。曰く、それっぽい、らしい。何がどうそれっぽいのか、俺にはわからないわけなのだが。


(別に教室で食べればいいのに……)


 そんなことを考えていると、目の前の女から声をかけられた。


「……遅かったですね。歩夢君」


「仕方がないだろ。授業中は眠くなるんだから」


 こればっかりは、本当に仕方がない。


「って、また寝てたんですか? 夜はもっと早く寝るようにしたらどうですか?」


「俺も最低限の努力はしてるんだよ」


「また変なことを言って……ほら、食べますよ」


「はいはい、わかりました」


 俺はソイツが作った弁当を食べ始める。タダで食べさせてもらえるのは、俺にとってありがたい。


「美味しいですか?」


「タダで出るんだから、美味しかろうが不味かろうが、別に関係ない」


「それ……遠回しに不味いって言ってません?」


「言ってない」


「……次からあなたの分作りませんよ?」


「……本当に、申し訳ない」


「全く……」


 そんなことを言ってはいるが、別に不味いとは思っていない。ただ、味に関してはあまり気にしていないというだけだ。だというのに……


 コイツ、読み取りが下手くそだな。国語苦手なんじゃないか?




○○○○○○○○○○○○○○○




 どうも、レンジでチンです。


 最後まで読んで頂きありがとうございます。


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