第6話
無駄に美味しいポテトを食べながら、みどりちゃんは俺を綺麗な世界に引き戻そうとする。
「りゅうちゃんは変わってないよ」
綺麗な世界はもう、怖い。
俺はあそこに戻りたくない。
「俺はみどりちゃんの知ってる俺じゃないよ」
飾った言葉でそう言ってみたらパチン、てデコピンされた。
「そーゆーところが変わってないんだってば」
あぁ、彼女はやっぱり優しいんだな。
だけど、俺はもうその優しさも信じられなくなっている。
いつから、って言われたらアニキがいなくなってから。
なんで、って言われたらアニキがいなくなったから。
俺からアニキを取ったら何もなかった。
「あの子、彼女なの?」
微笑しながらそう尋ねるみどりちゃん。
「いや、違う」
「じゃあ、なに?」
分かってるくせに聞き返すところ、アニキみたいと思った。
俺に言わせて、罪悪感をあおるやつ。
「セックスフレンド」
精一杯、嫌みったらしく答えた俺に、みどりちゃんは意外と表情を変えなかった。
「他にもそういう子いるの?」
「いるよ、沢山。腐るほど」
事実だけど言っちゃいけなかった。
でも、俺はもう戻れないから。
「みどりちゃん、泣いてるの??」
心の中では辛かったけど、顔には出さないで、わざと色っぽく言った。
みどりちゃんの頬に伝う涙を拭ってあげたら、その手を握られた。
「……帰ろう、りゅうちゃん」
そのまま店を出たけれど、このまま別れたところでみどりちゃんが俺のところにくるのは目に見えていた。
「みどりちゃん、俺、帰るところないよ」
そう言って、無理矢理みどりちゃんの腕を引っ張った。
「一緒に泊まってよ」
一瞬だけ沈黙が流れたが、抵抗もせず、すんなりとその申し出を受け入れた
みどりちゃんはやっぱり、みどりちゃんのままで。
「りゅうちゃん、やっぱり寂しいんだね」
そんなの、笑顔で言う言葉じゃないだろ。
「……ほんと、馬鹿だろ」
自分に言った言葉なのか分からなくなった。
みどりちゃんはアニキと同い年で21歳だった。
その位の年齢のやつなら相手にしたこともある。
力だって、もう俺のが強かった。
押し倒すのは簡単だった。
「……りゅうちゃん?」
「俺は変わったってなんで分かってくれないんだよ」
状況が理解できてきたのか、慌てて起き上がろうとする。
「無駄だって。
みどりちゃんは女なんだから」
この様子をもしアニキが見たらきっと、殴られるどころじゃないんだろーな。
「りゅうちゃん、やだ……、」
さっきまでとは違う怯えた目で俺のことを見つめる。
「言っとくけど、やめないから」
自分からってのは初めてだった。
いつも、声をかけられて、適当についてって、それなりのことをしてあげて。
だから、ホントはこんなに嫌がられるのも、服を乱暴に脱がすのも、初めてだったんだ。
女性にひどいことをして、わざわざ関係を持つほど、この行為にこだわりもなかったし。
唇を近付けて、あと少しのところでみどりちゃんが言った。
「だいすけっ……!!」
俺は顔を離してみどりちゃんの外れたボタンをかけ直した。
「……もう、俺に関わらないでね」
そう言って立ち上がって部屋を出ようとした。
「りゅうちゃん待って」
みどりちゃんの声が暗い部屋に響いた。
ゆっくり振り返ったらみどりちゃんは笑ってた。
「泊まろ。りゅうちゃんの好きにしたらいい」
なんでそんなに笑ってんだよ。
「……無理に決まってんだろ」
「なんで?私、怒ってないよ」
……なんで、怒らないんだよ。
怒ってくれよ、せめて。
「俺の話、聞いてた?」
「りゅうちゃん、何か話した?」
なんで、怖がらないんだよ。
「俺はもう、みどりちゃんとかアニキと一緒にいた頃とは、」
「私はりゅうちゃんのこと弟みたいに思ってるよ」
……なんで、そんな優しいんだよ。
「私の話、聞いてほしい」
この日、みどりちゃんに出会ったのは偶然だったのだろうか。
「大輔に、会ってきた」
ぽつりと呟き、みどりちゃんは腕を静かにさすった。
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