第5話

中一の、冬。

兄貴と離れて三ヶ月後。


俺はついにイケナイことをした。


兄貴と暮らしている時から、そういう風に誘われることは度々あった。

でも帰るところがあったから、断っていたけれど。


あの頃の俺は毎日がとにかく寂しかった。




「ねぇ、君」



高校生くらいの女の人に学校帰り、声をかけられた。



「私の相手、してみない??」



俺は綺麗な顔してたし、夜の街を歩き回ってて、地元、荒れてるしな。


そしてその時の俺に断る理由が見つからなかった。



「……いいよ」



落ちていくのを身体で感じていた。



俺の初めてはそんな感じで、ものすごくあっけなくて。


何かが分かったわけでもなく、ただ孤独をより感じてしまった。




「アドレス交換しよう??」



女のやたら頭に響く声とケータイについた沢山のストラップだけが頭に残っている。




「流星くん、上手だね」



上手い、下手はどーでも良いから。


早く俺を救ってくれよ。



何度も強く願ったのに俺はその暗い世界に落ちてしまった。


一回そうなると自分の価値を思い知らされる。



どうやら俺は相当、遊び人になってしまったようだ。


自分と同じ匂いがする女を漁っては捨て、気に入ったらキープした。



携帯のアドレスはどんどん増えていったけど、クラスの奴らは俺を余計避けるようになった。



なかには興味本位で話しかけて来る男もいたけど、俺の考えを話す前に怖じけづいて逃げる。



それでも学校には毎日真面目に通っていた。

別にやりたいことがあるわけじゃないし。



兄貴とした約束だから。

守らないと、いけない気がして。


中学二年の秋のことだった。



「……りゅうちゃん?」



暗い街を電話で呼ばれた女と歩いてたら聞き覚えのある声がした。

俺のことをそう呼ぶ人は一人しかいない。



「……何してるの??」



約一年ぶりだろうか、もっと会っていないかな。


そこにはみどりちゃんが立っていた。




「りゅーせー、早く行こうよ」



隣では女が俺の裾を引っ張って、俺もそのまま歩き出したかったのに、その声は俺のことを強く、強く引き留める。



「りゅうちゃん!待って!」



俺の方に走って来るみどりちゃんを見たら足が動かなくなった。



「……悪い、今日やっぱムリ」



俺はそう答えて、女の腕から手を抜いた。



最低、と言い捨て、怒ったまま見えなくなった女と引き換えに懐かしい優しさを感じていた。



「りゅうちゃん?」



ハァハァと息を整えるみどりちゃんを見たら、なぜか胸が苦しくなった。



「走っちゃダメだろ」



俺はこの人にどうゆう口調で話していたっけ?


この人はこんなに眩しかったか?



俺はこんなに汚れていたっけ?




「大輔みたいなこと言わないでよ」



その優しい手で肩を触れないでくれ。



「……さわんな、」



冷たく言い放ってから思った.


俺はもう、汚い。どん底まで堕ちてしまった。



この一年で俺は本当、おかしくなってしまった。



毎晩のように数え切れない数の女を相手にして、学校では何事もないかのように勉強をしている生活は確実に俺をダメにしていっている。



「りゅうちゃん、こんな所で何してるの?」



不安そうな目で俺を見てくる。



みどりちゃんに見られると俺が汚いのが余計に目立ってしまう気がする。



「……別に、何もしてねーよ」


「相当、遊んでるみたいだね」



そんな泣きそうな顔を向けないでほしい。



「向こうが寄って来るんだよな。俺って相当モテるみたい」


「りゅうちゃん、かっこいいからね」



無理やりにでも突き放さなければ、巻き込んでしまう。



「だから、俺変わったんだよ」


「とりあえず、どこかお店に入ろうか」



無視しようとしたけれど、大汗かくみどりちゃんを放っておけなかった。

俺は深くため息をつき、みどりちゃんの跡を追ってファーストフード店に入った。





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