第12話 ただの夢オチが
だるいはだるいけれどずっと家に居るのも面白くなかった俺は、夕方になってから重い身体を持ち上げて外に行くことにした。
昼も何も胃には入らなかった。今にも吐きそうなほど体調が悪い。柊に会わなくて済むからと言って、ここまでする必要はなかったかもしれない。いっそズル休みでもすれば良かった。
何のために生きているのか分からなくなってきた。
何かを本気で嫌と思うことが無かった。嫌な中でだって好きなことを見つけられた。
でも今の俺には柊しか居なかった。柊が居なかったら、俺が此処に居る意味など無かった。
今までずっと楽しく過ごせたのは、柊がすぐそこに居たからなのかもな。もし柊が居なかったら今、どうなっていただろう。
柊の存在に感謝しなければいけない。
そんなことを頭の片隅で考えながらも、ふらつきながら向かうコンビニ。
周りの冷たい空気から遮断されたような身体の熱さ。
もとから熱で真っ赤なはずの俺の頬を上塗りするように照らす夕陽。
一瞬にして、俺の意識は奪われた。
◇◆◇◆◇◆
『……音畑くん? 音畑くん!』
どこかスピーカーから聞こえるような声。この声は……柊。
『歩道で倒れてたんだよ……!』
きっと夢なんだろうなぁ。柊が此処に居るはずがない。悲しくなるから、近づかないでくれ。
俺は今、柊の隣に居てはいけないんだよ。
できることなら目を開けたいけれど、だるくて声を出すことさえもできない。
汗で額に張り付いていたであろう前髪が分けられる感触。駄目なのに、その感触が気持ちいいと思った俺は罪だろうか。
『ねぇ、音畑くん。聞いてて』
嫌だ。聞きたくない。聞いてはいけない。
例え夢の中であったとしたって、隣に居たくない。
俺が彼女の隣に居ることが彼女の幸せを妨げるのだから、俺が居てはいけないのだ。
でも。
隣に居させて欲しい。
『私、昨日ズル休みしたんだ。音畑くんと顔を合わせたくなくて』
なんで。柊はただ、白鳥と一緒に居ればいいのに。
なんで俺を顔を合わせたくなかったんだよ。
『でもさ、色々考えたんだよね。音畑くんにだって、別の幸せがあるもんね』
何を言っているんだ、柊。その意図を教えてくれ。
やめてくれ。これ以上、苦しそうな声を出すな……!
『……これ。本当は今日、渡したかったんだよ』
布団の中にあるであろう俺の手の中に、小さな袋を握らされる。
どんどんお互いに苦しくなるだけじゃないか。
手の中の感触が無くなる。
『でもね、渡さない』
どんどんと彼女の声が遠くなっていく。
待ってくれ、柊。俺は謝りたい……。
お前にそんなことを考えさせたいわけじゃなかったんだよ!
『音畑くんは、自分の幸せを見つけてね。あの女の人と』
あの女の人? 急に何の話だよ。嗚咽を含んだその声が、絶対に放してはいけないものな気がして。
『……ねぇ、好きだよ』
ほぼ声の出ない喉からどうにかして声を出したような、苦しげな、切なげな声。
待って。
待って。
「柊!!」
やっと起き上がることが出来たのは、いつも通りの俺の部屋……ではなく、リビングだった。
「……音畑くん?」
今度こそ、違う。
まじまじと見つめてしまう。
「……柊?」
そこに居たのは、俺が会いたいのか会いたくなかったのか分からなかった、図々しい夢の中にいた張本人。
彼女はこれまでにないほど目を見開いて、紛れもない俺を見つめていた。
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