第9話

教室に着いて、自己紹介をしたら今日は解散になった。同じクラスのはずの私の婚約者(仮)は出席していなかったが、誰も気にしていない様子だった。


友達を作ろうと意気込んでいたものの、ほとんどが中学からそのまま高校に上がってきた子達なので、既にグループが出来上がっていて話しかけられなかった。



なんだか、遠巻きにされている感じもあるのは何故なんだ。初日なのに。今朝は妹たちと一緒だったけど、今は違うから今朝みたいに遠巻きにされることは無いと思っていたのに、そんなことはないみたいだ。




いや、初日だからこれからだ!明日から友達作り頑張るぞ!と息巻いて今日は戦略的撤退を決めて、教室の扉を開けようとすると、私が開ける前に扉が開いた。


誰が開けたのか私が認識する前に、後ろから大きな歓声が上がった。


「うそ!月城くんだ!」



え、と思い顔を上げてみると、入学式の時に遠くからぼんやりと見た顔がすぐ目の前にあった。


遠目で見ても整った顔なのはわかっていたけど、近くで見るとより綺麗な顔だった。



艶のある漆黒の髪。切れ長の目の瞳は夜空を閉じ込めたような不思議な色をしていた。



あまりの綺麗さに動けないでいると、彼と目が合った。



目の前の美丈夫は、私を見て少し目を見張るとガシッと私の左手首を掴んだ。



え?と思い掴まれた左手首を見てから、私の手首を掴んでいる彼を見あげると、彼自身も驚いたような顔をしていた。



いや、驚いたの私だから!なんとか言ってよ!とりあえず離してもらおうと口を開こうとした瞬間


「きゃーーーーーーーー」


後ろで悲鳴が上がった。



何事かと思って後ろを振り返るとクラスメイトたちが驚愕した顔でこっちを見ている。



「あの、人に興味を持たないことで有名な月城くんが、、、」

「あの二人って知り合いなの?!どういう関係?!」


ああ、そういう事か入学式でも感じていたが彼の人気は相当なものらしい。


教室の中の盛り上がりとは裏腹に目の前の彼は、微動だにせず、私のことを離してくれる気配もない。


とにかく、場を収めようと思い、私の手首を握ったままの彼に話しかけてみる。


「あの、私これから帰るところで、とりあえず手をはなしていただけると嬉しいのですが、、、」

「、、、」


声をかけてみたが反応がかえってこない。ちょっと、せめてなにか反応してよ!困るよ!


もう一度声をかけようとすると、不意に腕を軽く引っ張られた。


「着いてきて」

「「きゃーーーーーーーー!」」


やっと反応が返ってきたと思ったらどこかへ連れていかれるらしい。抗議しようと思ったが、多くの悲鳴にかき消されてしまった。

手を振りほどこうかとも考えたが、何故か振りほどく気にはなれなかった。



妹たちとも朝関わらないって話をしたのになんでこんなことに、、、



多くの視線と悲鳴を浴び、半ば諦めの気持ちで妹たちへの言い訳を考えながら彼の後ろを手を引かれて歩いていく。


さようなら、私の平和な学園生活、、、

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