第35話 幕間②
───繰生宅、奏の部屋。
奏の部屋の絨毯の上に座布団を敷き、その上に正座(?)している紅蓮。
…短い足でどうやって正座しているのかは謎だったが、珍しく真剣な顔をした紅蓮は目の前に置いてある短刀(ソフビのおもちゃ)を凝視している。
やがて短刀を手に取ると、迷いなくそれを腹に突き刺そうと…
「ミャ(やめんか)」
(ドガッ!ゴロゴロゴロ、ゴンッ)
「ガウウッ」
…した瞬間、横から伸びた煌の蹴りに吹き飛ばされ、壁まで転がされる。
慌てて立ち上がり、煌に向かって何かを叫ぶ紅蓮。
「ガウッ!ガウウ!ガウウ!」
「ミャミャミャ(…何を言うとるのかわからん、落ち着いて喋れ。白銀、此奴は何をやっとるのだ?)」
煌が問うと、横で何故か斧槍を構えていた(介錯?)白銀が答える。
「メ゛エエエ(は、紅蓮兄者はどうやら、あの異空間での戦いで、勇人少年にアタッカーとしてのお株を奪われ、碌に活躍できなかった事を恥じておられるようです兄者)」
「ミャ〜(あ〜、いやあれは、勇人少年の成長がインフレ起こし過ぎとるだけだと思うぞ?ポリポリ)」
男子三日会わざれば…というが、あの成長速度は正直チートが過ぎると思う煌であった。
実際、最初のダンジョンでスライム相手に苦戦していたのが嘘のような成長速度である。
「ミャアア(紅蓮よ、あんなどこぞの少年漫画の主人公と自分を比べても仕方あるまい、お主はよくやっておる)」
えらい言われようである。
「ガウウ(デモ、デモ、オデは…ひめさま二ミットもナイトコロを…トメテクダさるナ!)」
そう言うと、再び短刀(繰り返すが、おもちゃである)を手に取り、自分の腹に突き立てようとする紅蓮。
刺さらないし、刺さっても綿が出るだけだと思うが。
「ミャアア!(たわけ!)」
だが、再び煌に手を弾かれ、短刀(しつこいようだが、おもちゃである)を取り落とす。
「ガウウ!(い、イキハジヲサラセと…)」
「ミャ!(たわけ!己は何者じゃ!姫様の従魔であろう!)」
「ガウッ!(そ、ソレは…)」
「ミャアア!(死んで良い、と誰が命じた!紅蓮!)」
「ガウウ…(ウウウ…)」
ガックリと膝を着いて泣き崩れる紅蓮。
その肩に手を置いた煌は、紅蓮に優しく語りかける。
「ミャアア…(そんなにも悔しかったのであれば、その悔しさを糧にして、今より強くなれ。そうすれば、姫様もきっと喜んで下さる…そして其れこそが従魔たる者の本懐、そうであろう?)」
「ガウウ…ウッ、ウッ(あ、アニジャ…ぐれんは…グレンはアア…)」
「ミャ(紅蓮…)」
「メ゛エエエエ…(紅蓮兄者…)」
男泣きに泣く紅蓮と、その肩を優しく抱える煌と白銀、それはまさに『桃園の誓い』の劉備、関羽、張飛の如く…3人の絆が更に深まった瞬間であった。
(ガチャ)
「煌、紅蓮、白銀、オヤツだよ~、……何やってんの?」
何故か蹲って泣いている紅蓮を煌と白銀が慰めている。
(コツン)
「ん?」
足に何かが当たったので見てみると、子供の頃に遊んでいたソフトビニール製の剣が落ちていた。
「こんなのまだあったんだ」
紅蓮か煌がおもちゃにしてたのかな。
「よっと」
とりあえずジュースとお菓子を乗せたお盆を置き、まだ泣いている紅蓮を抱き寄せる。
「よしよし、もう大丈夫だからね〜」
そのまま赤ちゃんにする様に、ゆらゆらとあやして上げると、ようやく泣き止む紅蓮。
「ガ、ガウッ!(ア、アノ、ヒメサマ、ハズカシイのデ…)」
「ほれほれ〜(こちょこちょ)」
「ガ、ガウッ!(お、オユルシクダさ…ハッ!)」
「ミャ…(紅蓮貴様…一人だけ…)」
「メ゛エエエエ…(赤ちゃんを装って姫様のこちょこちょを頂くとは…紅蓮兄者、策士でございますなあ)」
「ガウーッ!(ち、チガううう!)」
ただならぬ殺気に横を見ると、煌と白銀から嫉妬のオーラが立ち昇っているのが見える。
…此処に三匹の友情は崩壊した、短すぎる桃園の誓いであった。
──ゴーレムダンジョン及び異空間ダンジョンをクリアしてから、既に3日が経っていた。
助けに来てくれた勇人と、委員長達を無事救助してくれた敦には幾らお礼を言っても足りないくらいだ。
勇人は『親友を助けに来るのは当たり前、お前だって俺がピンチだったら来てくれるだろ?だからそう言う水臭いのは無しな』とか言って、さっさと修行に戻って行った。
そう言うセリフを恥ずかしげもなく…陽キャめ。
元々ちょっと僕の様子を見に来ただけだったらしい。
敦も僕と委員長と双子に感謝されて、表面上は素っ気なかったけど、まんざらでもなさそうではあった。
そして何故か、『師匠の所で鍛え直してくる』と言って、修行に戻る勇人に着いて行った。
いや本当に何故?と思ったが、どうも勇人の急成長振りに危機感を抱いたのではないかとは委員長の弁。
危機感…なんで?と思ったが、委員長からは『カナちゃんはそのままでいいと思うわ』と言われてしまった…解せぬ。
双子には心配させた罰として、また配信に出ることを約束させられてしまった、まあ楽しかったし別にいいけど。
まあ友達関係はそれでいいとして、大変だったのはその後、ダンジョン庁への報告だった。
何しろそれ程ランクが高い訳でもないダンジョンで(条件付きとはいえ)
ダンジョン庁は今、ひっくり返したような大騒ぎであるそうな…あの配信でコメントしてくれてた職員らしいお姉さん大丈夫かな…御自愛下さい。
ちなみにあれからダンジョン庁に依頼された探索者達が、出現条件を確認に行った結果、クラウドラム系の
(またランクが上がるかも知れないと言われたけど、そんなポンポン上げて良いものなのだろうか)
ただし出てくるのは『ブラックゴート・ダークナイト』というモンスターに変わっていたらしい。
(そりゃ、白銀…『シルヴァーゴート・パラディン』は此処にいるしなあ、今は『ドラゴニック・シルヴァーゴート・パラディン』だっけ?)
その後の、クルセイド・センチビートの出現についてはもはやお手上げ状態。
本来このダンジョンには出現しない系統のボス。
しかもイレギュラーボスに襲いかかって倒してしまうとか、完全に意味不明である。
何となく理由はわかるような気がするものの、亜空間や魔蟲神の影については話していいのかどうか判断がつかない。
(これは母さんが帰って来たら相談だなー)
ひたすらしらばっくれるしかない僕だった。
そうそう、煌、紅蓮、白銀は進化して、姿がちょっと変わった。
僕のも含めてDカードに表示させると、
Namu:繰生 奏
Job:ぬいぐるみ使い→玩具姫(new!)
skill:クリエイト リペアⅡ→リペアⅢ(new!) トイボックス スピーシーズ(アーケイドラゴン→アーケインドラゴン・プリンセス)(new!) アトリビュート(サンダー/アイス) クラフティング・トイズ(new!) ドラゴンズ・レガリア(new!) マインド・トーク(new!) バイセファラス(new!) オルクス・ドラゴニス(new!) ディアブロ・コール:ヘブンリー・ボルト(new!)
sarvant1:
skill:ゴッドキラーブレス(new!) リアライズ ドラゴン・ロア(new!)
見た目は特に変わりなし、ただ、ブレスがゴッドキラーブレスという物騒な名前のブレスに統一され、ドラゴン・ロア…竜語?というスキルが増えた。
sarvant2:
skill:リジェネート→ハイリジェネート(new!) フレイムブラッド→ドラゴンブラッド(new!) リアライズ ドラゴンスケイル(new!) ドラゴン・ロア(new!)
紅蓮は身体の所々に鱗が生え、鎧の様になっている。
それと元からの
後、紅蓮にもドラゴン・ロアがある。
sarvant3:
skill:ホーリーマジック(new!) ウェポンマスタリー:ポールウェポン(new!) ウェポンマスタリー:タワーシールド(new!) ウェポンマスタリー:ヘビーアーマー(new!) リアライズ(new!)ドラゴン・ロア(new!)
Equipment:白銀の聖竜鎧、巨竜斧槍「天罰竜の断罪」、塔竜盾「不壊の守護竜壁」
白銀は中身はそれ程変わってないけど、装備品に竜の意匠が入って、随分格好良くなっている。
後、白銀にもドラゴン・ロアが生えた。
…ツッコミ所があり過ぎる。
まず、僕の職業が『ぬいぐるみ使い』から『玩具姫』に変更、これはどうやら上位職にクラスチェンジアップしたということで良いらしい。
ただ問題は『ぬいぐるみ使い』自体がこれまでに一度も出現した事が無い『職業』であるので、どんな職業なのかがさっぱりわからないって事なんだけど。
ただ一応、既存の職業に照らし合わせて考えるなら、『王』とか『姫』とか付く職業は、傾向として汎用性の高い強力なスキルを習得する事ができる…らしい。
僕の場合なら、この《
…まあ使い方はさっぱりわからないんだけど。
ちなみにサリエさんはその後、本部からやって来た先輩さんと同僚さんに引き摺られて行った。
これから暫くブラック企業も真っ青な連勤が待っているらしい…ご苦労様です。
…どうも原因は僕らにあるらしかったが。
今度会ったら優しくしてあげよう。
《
突然、頭の中に煌や紅蓮の言葉が響いて来たのにはびっくりした。
白銀?あの子は元々流暢に喋れるので。
因みに無駄にイケメンボイスである。
煌の念話はちょっとおじいちゃんぽい喋り方…ロリジジイ?
紅蓮の念話はちょっと舌足らずな子供のように聞こえる。
それと、種族が『アーケインドラゴン』から『アーケインドラゴン・プリンセス』に変わった事で得られたのがこちら…いや誰が
《
《
《
《魔剣召喚・
こちらについてはサリエさんに聞くわけにもいかない、どうしたものかと思っていたら、意外な所から助け舟が来た。
…そう、煌である。
正確には煌の中にいるあの黄金の古代竜…《金色の支配者ゼルガドリス》様だ。
《念話》を習得した事で、煌とその中にいるゼルガドリス様と意思疎通が出来るようになったので、この際だから色々聞いてみることにした。
ゼルガドリス様はあの魔蟲神アチュアトルと喋っていたし、色々と事情に詳しいと見た。
まず、こないだの異空間での戦いで魔蟲神の影が散々言ってきたように、どうやら僕は本当に母さんや竜崎先生が言っていた《竜母神ティアマト》という女神の生まれ変わりであるらしい。
そしてゼルガドリス様は、ティアマトの
ゼルガドリス様は今、前の身体が古くなった為、その魂と精神体を《
これは神にまで至った竜の生態で、基本寿命というものが無く、長く生きれば生きただけ強力になっていく竜族だが、それでも物質としての肉体にはいつか限界が来る。
それ故、何万年もの年月を生きた竜族は古い身体を捨てて、精神だけの状態で暫く眠りにつき、また新しい身体に転生する事で、肉体的にも精神的にも若返る。
今は、姪である僕(ティアマト)を心配して、ぬいぐるみの身体(煌)に精神だけを送り込んで来てくれている訳だ。
(赤ちゃんドラゴンとしての煌の人格は別に存在している、今は睡眠中)
そのゼルガドリス様が色々教えてくれた。
前世?の事はまだ殆ど思い出せてはいない。
というか、時間が経つごとに段々と薄れて行っているように思う。
煌によれば、僕が十分に成長したら、今は眠っている精神体から全ての記憶がダウンロードされるので、それ迄は無理に思い出さなくてよいとのこと。
今回のは、あの魔蟲神に接触した事で、一時的に記憶が戻っただけであり、いずれ薄れて行くでありましょう…との事。
『ミャ!(今はただ、繰生奏としての人生を謳歌してくださればよろしいですじゃ、わからない事は、我がサポートしますので…まあ、我もずっと現世に降りておれる訳でもないのですが…)』
ゼルガドリス様が煌の中に顕現していられるのは、《リアライズ》の使用後暫くだけであるらしい。
眠ってしまう前に、聞けるだけ聞いておこう。
煌によれば、ティアマトのドラゴンとしての姿は、9本の首と18の魔眼、8対16枚の翼と27の魔眼と36本の竜角を持つ山脈の如き巨竜であるらしく、双頭や龍眼はその一部が生じ始めたという事で…まって?僕そんな化け物みたいな姿になるの?
『竜族において多頭の竜はティアマト様の血が濃いとされ、尊ばれる特徴ですぞ?』
ええ…その感覚わかんない。
《
効果は、ゲーム的に言うなら《MP回復速度上昇(特大)》《MP最大値増加(特大)》…これが一番チートじゃない?
《
同時に幾つもの思考が出来るようになり、脳の処理速度が大幅に上がる?
…大丈夫これ?多重人格になったりしない?
『多頭竜はそれが普通なんですがの?片方ずつ交互に眠ったりとか』
…なんだっけ、イルカだっけ?半球睡眠?
《
《魅了》《麻痺》《石化》《猛毒》《凍結》…好きな魔眼を好きなだけ作り出せるそうな。
そう言えば片目が金色に変わったんだけど、これも魔眼?
『…ですな、《停止》の魔眼かと。それでアチュアトルの動きを止めたんですな、流石ですぞ』
あー成る程、あの時急に姉上が停まったのはそれでか。
…そんな沢山目が会ったら酔わない?
『眷属に魔眼を授けたりもできますぞ』
《魔剣召喚・
勇人の事を笑えなくなった…。
『これは…人前ではあまり使わない方が良いかも知れませぬ、騒ぎになります』
そうなの?
『その魔剣を召喚できるのは姫様だけですからな…いらぬ諍いに巻き込まれたくないのであれば、当分は秘密にしておいた方がよろしいかと…特に慧竜族の皆には』
…因みにどうして?
『見合い話が大量に来ることになりますな。まあ姫様がよろしいのであれば』
うん、当分秘密にしよう。
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